「体温−2」
「ねぇ、悠理。あんた清四郎のこと・・・。」 清四郎の「留学宣言」の夜、生徒会室での悠理の様子にただ一人気付いた可憐が、剣菱邸を訪れていた。 悠理は自室のソファに寝そべったまま、動こうとしない。
「なんで、止めなかったのよ。・・・あんな事言ったりなんかして・・・。」 可憐は机の上に置いてある写真たてに目をやった。 そこには、以前みんなで撮った写真が納まっている。 (あの写真を撮ったときは、誰一人欠けるときが来るなんて思いもしなかったのに。)
「・・止められるわけないだろ・・。」 悠理がクッションに顔を埋めくぐもった声で、呟く。 「可憐も言ったじゃないか。アイツの性格ならあたいが何か言ったところで"はいそうですか"なんて考え変えるやつじゃないよ。」 「だけど・・、好きなんでしょ。アイツのこと。」 悠理の身体が大きく揺れた。 「アイツは・・・。あたいがアイツを好きだって言ったって、アイツはあたいの事そんな風に思ってないし・・。」 「ホントに、そう思うの?・・・違うでしょ。あんただって気付いてるハズよ、清四郎があんたの事どう思ってるか。」
可憐は、悠理の清四郎への想いには今日初めて気付いた。 だが、清四郎の悠理への想いはもうずっと前から知っていた。 いつも隣にいる幼馴染の少女に向けられるのとはまた別の、暖かく包み込むような眼差しに、気付いていないのは悠理ただ一人だった。 だが、この二、三日前からふたりの間に流れる空気が微妙に変化していた。 だから悠理もそれに気付いている、そんな気がしていたのだった。 今日の悠理の態度でそれを確信した。
「あんた達の間に何があったのかは知らない。だけどあんたは、清四郎の気持ちに気付いた。そして自分の気持ちにも気付いた。違う?」 「・・もう、遅いんだ。あたい気付くのが遅かったんだよ。アイツの気持ちにも、自分の気持ちにも・・。」 「悠理?」 「アイツはきっと、ずっと前から決めてたんだよ。そこに今更あたいが入りこむ隙なんか、もうどこにもないんだ。」
悠理はそれ以上何も言わなかった。
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