「体温」

 

 

 

「「「「「留学ぅ!!!」」」」」
生徒会室に五人の声が響いた。
原因を作った男は少しはにかんだような顔で皆の表情を見ている。
「なんでだよ!お前、このままみんなと一緒にココの大学に進むっていってたじゃないか!」
以前清四郎と魅録はお互いの進路について、そう話ていた。
清四郎は医大へ、魅録は防衛大へ、それぞれそう思っていたのだがこの腐れ縁には勝てないと。
それが、いきなり清四郎がイギリスへ留学する事にしたと言ったのだ。
「なんの冗談ですの?」
常に一番近くにいた野梨子でさえ、初耳だったようだ。
「冗談なんかじゃありません、本気ですよ。」
「本気って、あんた・・。どういう事よ、それ。」
「どういうって、そのままの意味です。このまま上に進もうと思ってたんですけどね。どうせその後、海外に留学するつもりでしたから。それならいっそのこと初めから向こうに行った方がいいでしょ。」
「いいでしょって・・・。もう決めちゃったの?」
美童が不安げに訊いた。
「えぇ、卒業式の日に向こうに行きます。早めに行って親父の友人の所で勉強がてら手伝いをしようと思って。」
「卒業式っていったら、後一ヶ月もないじゃないか!なんで、今まで何も言わなかったんだよ!!」
今にも清四郎の胸倉を掴みそうな勢いで魅録が叫んだ。
「スイマセン、僕自身なかなか決心がつかなかったんですよ。」
「どれぐらいですの?」
「わかりません。すぐに音をあげて帰ってくるかもしれないし、そうでなければ、気の済むまでいるつもりです。」
それまで、スカートを握り締めうつむいていた悠理の肩が揺れる。
だが、それに気付いたのは隣に座る可憐だけだった。
「悠理?」
握る手に一瞬力をこめると悠理が勢いよく顔を上げた。
「な!なんだよ、みんな。清四郎が留学したいって言ってんだから、気持ちよく行かせてやろうぜ!イギリスだろ?遊びに行こうと思えばいつでも行けるトコじゃん。それに一生会えないわけじゃないんだからさ!なぁ、清四郎?」
「もちろんですよ。いつでも遊びに来てください。」
「ほ、ほら!な?だから、みんなそんな顔すんなよ。清四郎だって行きづらいじゃないか。」
可憐は悠理の精一杯の強がりに、スカートが破れるんじゃないかと思うほど力の入った手をそっと上から包み込んだ。
「そ、そうね。何もこのまま会えなくなるわけじゃないんだし。ほら、野梨子、あんたの幼馴染がどういう性格か知ってんでしょ。あたし達がいくら止めたって無駄よ。そんな顔してないで笑って見送ってやんなさいよ。魅録も美童も、なんて顔してんのよ。」
「そうですわね、清四郎は本当に頑固ですもの。いくら私達が何を言ったってこうと決めたらてこでも動きませんものね。」
少なからずショックをうけていた野梨子も漸く笑顔を見せた。
覚悟を決めてしまえば前向きになる、野梨子らしい。
「ホントに会えなくなるわけじゃないんだよね。」
「えぇ、もちろんですよ。イギリスなんて美童からすれば庭みたいなモンでしょ。」
「ま、まぁね。そうだよね。イギリスだもんね。」
「・・・ホント、お前らしいよな。俺達になんの相談もなくさ。でも、行くからにはそれなりの結果持って帰ってこいよ。」
悠理と可憐の言葉に覇気を削がれたのか、魅録もとうとう諦めた。
「行くからにはただじゃ帰ってきませんよ。この居心地のいい空間から自ら進んで出ていくんですからね。」
ニヤリと笑った。

 

 

 

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