3. 昼休みの美術室。 鍵を閉めた暗い部屋にも、生徒たちの弾ける笑い声は響いてくる。 遠い喧騒をBGMにして、清四郎と悠理は享楽に溺れていた。 半裸の悠理を教壇の机に押しつけ、背後から激しく突く。 あまりに激しく突くもので、教卓の足が浮き上がり、床でガタガタと音が立った。 悠理は感じるままに声を上げているが、清四郎はそれを諌めなかった。 次の授業で、ここのフロアを使用するクラスがないことは、事前にリサーチしている し、ちょうど今、週一回の職員会議が行われている。だから、悠理がいくら声を上げ ようが、聞きとがめる人間は一人としていないのだ。 あれから、清四郎と悠理は、しょちゅう関係を持つようになった。 どちらかがその気になれば、すぐに呼び出し、こうやって、ひと目につかない場所 で、快楽に耽った。もちろん、休日も予定が合えば、必ず会って、痴態を繰り返し た。 自室、ホテル、車。とにかく、身体を繋げられれば、場所などどこでも良かった。 二人は、ただ、性の悦楽に溺れるためだけに、互いを深く求めた。 ここ三日は、連続して悠理が清四郎を誘っていた。 いつもは清四郎から誘うことが多いだけに、彼女が連続して呼び出すというのは、は じめてといっていいほど珍しかった。 悠理が教卓を掴んだまま、大きく仰け反り、切なげに啼いた。 同時に、清四郎に絡みつく粘膜が、ぎゅう、と収縮する。 そして、清四郎も、悠理に合わせて、精を放った。 細い腰を強く掴み、擦りつけるように、自分の腰を動かす。 すべてを出し切る前に、悠理が崩れ落ちそうになり、慌てて細い身体を支える。 「大丈夫ですか?」 尋ねても、返事はない。半ば失神しているようだ。 原因は明白だ。清四郎が、度を越して悠理を責めたせいである。 仕方なく、弛緩した彼女を、綺麗とは言い難い床に寝かせる。 手早く避妊具の始末をして、自分の身なりをさっと整えてから、半裸の悠理に手をか ける。 ブラに乳房を入れ、腕に引っ掛かったブラウスを肩にかけて、ボタンを留める。それ から、ぐっしょり濡れた下着を申し訳ない気持ちで穿かせ、スカートの乱れを整え て、最後に薄桃色のくちびるにキスを落とした。 髪を指で梳いてやりながら、軽いキスを繰り返すうちに、ようやく悠理が眼を開け た。 「・・・清四郎・・・」 甘い声で呟き、首に手を回して、さらなるキスを求めてくる。 そんな彼女が可愛らしくて、思わず細い身体を抱く腕に力を籠めた。 「いたいよ、清四郎。」 悠理がくすくす笑いながら、身を捩った。が、清四郎に逃がす気はない。逃げる顔 を、くちびるで追い、吐息までもを絡め取った。 昼休みの喧騒を、はるか遠くに聞きながら、深いくちづけを繰り返す。 悠理の足が床を滑り、ゴム底の靴が、きゅ、と音を立てた。 くちびるが離れた途端、それまで二人を包んでいた熱い空気が、消えた。 名残を惜しむことなく立ち上がると、それぞれ制服の埃を払い落とし、手櫛で髪を整 える。 「では、また。」 短い挨拶を残して、清四郎が美術室を出ようとすると、悠理がそれを呼び止めた。 「清四郎、お前、この間、下級生から告白されたんだってな。」 清四郎はドアの手前で足を止め、振り返った。 「よく知っていますね。」 「お前に告白した娘って、あれだろ?野梨子と可憐が卒業したら、学園一の美女にな るって噂の、音楽科の一年生。その娘の友達が、あたいの取り巻きの一人なんだ。」 悠理は傍らの椅子を動かして、乱暴な仕草でどっかと座った。 「でさ、お前、その場で断ったって聞いたけど、なんでだよ?可愛い娘じゃん。」 豹を思わせる瞳が、清四郎の一挙手一投足を見逃すまいとするかのように、細くなっ た。 悠理が言うとおり、清四郎は、三日前に、音楽科の一年生から告白された。 野梨子や可憐とは違う意味で、とても魅力的な美しい娘だったが、清四郎の心は、動 かなかった。 「現在も、未来も、特別な好意を抱けそうになかったから、断った。それだけで す。」 清四郎は踵を返して悠理の傍へ戻り、細い顎を指で掴んで、くいと持ち上げた。 「どうしてそんなことを聞くのです?まさか、焼もちですか?だから、三日連続で僕 を呼び出したと言うのではないでしょうね?」 ぱし、と軽い音がして、手を振り払われる。 「まさか。単なる興味だよ。お前が、他の女にも、あたいと同じことをするのか、っ てな。」 「無人の教室に呼び出して、真っ昼間から情事に耽るようなことを、ですか?」 そこまで言ってから、くすり、と笑う。 「並みのお嬢さんが、そんなことに耐えられるはずがないでしょう?」 「あたいは、並みの女じゃないって?」 真っ直ぐに男を見上げる瞳には、強靭な光が宿っている。 清四郎は、上半身を屈めて、制服の上から、柔らかな乳房を弄った。 「ええ。こんなに感じやすくて官能的な身体の持ち主が、並みの女であるはずはあり ません。」 二人の間に、ふたたび男女の空気が漂う。 悠理の両腕が、清四郎の首に絡みつき、二人の距離がゼロになった。 また、くちびるが重なる。 幾度も、幾度も。 飽くことなく。 吐息を共有する。 予鈴が鳴り響き、喧騒が止んでも、二人のくちびるは重なったままだった。 ********************* あっという間に日々は過ぎ、気がつけば、11月になっていた。 エスカレーター式で大学部に進む予定の、女性三人と美童は、気楽な日々を過ごして いたが、それぞれ違う大学への進学を希望する清四郎と魅録は、気忙しい毎日を送っ ていた。 「清四郎と魅録が違う大学に行ったら、残る男は僕だけなんだよね。」 美童が悩ましげに呟く。 「二人のファンが美童に流れるかもしれないから、嬉しいでしょ?」 振り返りもせずに答える可憐を、美童がむっとしながら睨む。 「誰がそんなこと言ったんだよ?僕は、男がひとりになったら、可憐たちから良いよ うに扱われそうで怖いって言いたいんだよ!」 そこに、野梨子の冷たい声が飛んだ。 「美童を良いように扱っても、大したメリットもありませんし、安心してください な。」 「なんだよ、それ!?」 仲間たちが交わす、取りとめもない会話を聞きながら、清四郎は、センター試験対策 の問題集を眼で追っていた。 清四郎の隣では、悠理が棒つきキャンディーを舐めながら、窓の外に広がる曇天を見 上げている。顔はともに明後日の方向を向いているが、テーブルの下では、二人の足 はぴったりと密着していた。 「卒業、かあ・・・」 悠理がぽつんと呟き、それを聞いた魅録が、参考書から顔を上げた。 「何だよ、悠理。お前も、六人じゃなくなるのが寂しいのか?」 「それもそうなんだけど、さ。」 テーブル下の足が、さらに密着した。 「なんていうのかな?生活が変わるっていう、実感?そんなの、全然感じないん だ。」 「その気持ち、私も分かりますわ。」 野梨子がこちらを見て、頷く。 「このままでいられないのは理解しているんですけど、心のどこかでは、変わらない と信じているんですわ。きっと、卒業して、生活が一変するのが、怖いのでしょう ね。」 悠理の手が、清四郎の太腿の上に、移動してきた。 きゅ、と力を籠めて、清四郎のズボンを握ってくる。 「卒業したら、変わらなきゃいけないのかな・・・?」 不安げな言葉に、野梨子が苦笑する。 「変わらなければいけないのではなく、卒業すれば、否応なしに、変わるのです わ。」 清四郎は、それを黙って聞いていた。 悠理の手の温もりを、確かな存在として、感じながら。 卒業まで、あと四ヶ月。 悠理の不安を映して、清四郎の心も、波立った。 ********************* やがて、冬になった。 二人の関係は、季節が巡っても、変わらなかった。 授業中、二人は、屋上にいた。 給水塔や排気口の装置が、所狭しと並んだ、立入り禁止区画は、冬の風を遮ってくれ ると同時に、二人の姿や、声までをも、しっかり隠してくれる。 寒いのが分かっていて、屋上までやってくる酔狂な人間はそういないし、二人にとっ ては、最適の密会場所だった。 清四郎のクラスでは、今、数学の小テストが行われている。清四郎は、それを十分で 解き終えて、教室を出てきた。 悠理のクラスは、化学の実験だ。担当教諭はあまり熱心な指導者ではないから、ひと りくらい抜けても気づかないし、気づいたとしても、面倒を嫌って気づかない振りを しているだろう。 悠理は、立ったまま壁に凭れている。 右の足首にタイツと下着を絡め、左手の甲を口に押し当てて、必死に声を殺してい る。 一方の清四郎は、床に膝をついて、彼女のスカートの中に頭を突っ込んでいた。 スカートの中からは、ぴちゃぴちゃと、淫靡な音が響いてくる。 時折は、ずず、と水っぽいものを吸い上げる音もする。 悠理は眉を顰めて、必死に耐えている様子だったが、いくらもしないうちに絶頂を迎 え、壁に凭れたまま、掠れた悲鳴を上げた。 悠理は浅い呼吸をしながら、瞳いっぱいに涙を浮かべ、異様に膨らんだ自分のスカー トを見下ろした。 「せ、せいしろぉ・・・もう、立っていられないよ・・・」 その言葉どおり、悠理の膝は、がくがくと揺れていた。 清四郎が、スカートの中から、顔を出す。 端正な顔。薄いくちびるは、悠理が溢れさせた蜜で、どろどろに濡れていた。 くちびるのぬめりを、舌で舐め取りながら、薄く微笑む。 「味がいつもと違いますね。今日あたりが排卵日のようだ。」 男の台詞に、悠理はかっと赤くなった。 「・・・変態!」 「変態とは何ですか。医学的にも立証されていることですよ。女の身体は、排卵に よって、分泌液の味や匂いを変える。」 そこで、清四郎は、ふたたびスカートの中の住人になった。 「ひっ!」 悠理が細い悲鳴を上げ、白い首を仰け反らせた。 「もっとも妊娠しやすい時期、メスはオスを誘う身体に変化するものなのですよ。汗 も男が欲情する匂いへと変わり、性感の具合も変わります。ほら・・・悠理のここ も、いつもより敏感になっている。」 スカートの中から聞こえる、くぐもった声。 悠理は答えることもできず、ただ、頭を左右に振って、めくるめく快感に耐えてい る。 「生理が近づくと、悠理は胸を揉まれるのを嫌がりますね。あれは・・・乳房が張っ て、触られると痛むからですか?」 清四郎が、ふたたびスカートから顔を出した。 そして、立ち上がると、慣れた手つきで、悠理の上着を肌蹴させていく。 「お前・・・あたいをからかって、玩具にしているだろ?」 悠理が潤んだ瞳で清四郎を睨む。 「そんなことを言われるとは心外ですね。」 ブラのフロントホックが外れ、支えを失った乳房が、ぷるんと揺れた。 「僕は、どうして悠理をいくら抱いても飽きないのか、その理由を研究しているつも りなんですが。」 清四郎は、口をへの字に曲げた悠理を見ながら、つんと尖った乳首を舐め上げた。 「あっ・・・そんなの・・・身体の相性がイイからに決まっているだろ?」 そんなことは、清四郎にも分かっていた。 二人の身体は、驚くほどに相性がいい。 だが、悠理の身体に飽きないのには、他に理由がありそうな気がしてならないのだ。 清四郎は、掌ぜんたいで悠理の乳房を包み、やわやわと指を動かした。 「痛っ!」 やはり痛むらしく、悠理が顔を顰める。 しかし、その表情は、清四郎が優しく乳首を吸い上げると、すぐに緩んだ。 いつものように、身体が繋がる。 ゴムに覆われた、熱い塊が、悠理の体内で暴れ回る。 敏感なスポットをしつこく擦られ、悠理は、立て続けに達した。 男の背中に縋りつきながら、悠理はうわ言のように清四郎の名前を繰り返す。 清四郎も、それに呼応するかのように、繰り返し悠理の名を呼んだ。 「・・・卒、業・・・」 悠理が喘ぎながら呟く。 その声に、清四郎は腰を動かすのを止めないまま、荒い息と一緒に、答を吐き出し た。 「卒業しても・・・僕は、この関係を止めるつもりは、ありませんよ。」 清四郎の腰が大きくしなり、悠理の奥の奥まで貫いた。 ぴったりと密着した部分を、もっともっと密着させたくて、身体を擦り合わせる。 「・・・せいしろ・・・離れないで・・・」 祈りのような、細い呟きは、荒い呼吸音と、放出の快感に掻き消され、清四郎には届 かなかった。
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