「好き…だから?ほんとに?」

「本当です。でも、ずっと自分でも気付いていなかった。だから…」

信じられないという表情で自分の顔を覗き込み、問いかける悠理に清四郎は素直に答えた。

「あなたには、本当にひどいことをしてしまった。許して下さい」



放心したように、どん、とソファの背にもたれ、悠理は考えを巡らせた。

清四郎の告白が、心に染み込むまでにはしばらくの時間が要った。

―――清四郎も、あたいが好き。

嬉しい。

両目に涙をいっぱいに溜めたまま、悠理は微笑んだ。ただ、嬉しかった。

―――甘いな、あたい。絶対に許せないなんて、思ってたくせに。

自分でも、バカだと思ったけれど、清四郎の縋るような眼を見ては、拒絶することなどできなかった。



「悠理…悠理は、何故僕に抱かれていたのですか?」

清四郎が、尋ねる。この男に似合わぬ、不安げな表情で。

「あたいも…お前が好きだから…」

気付いてなかったんだけど、な。と、泣き笑いの表情を作る悠理に、清四郎の瞳も潤んだ。

「悠理……」

跪いていた清四郎が、悠理へと身を乗り出す。



「キスしても、いいですか?」



悠理が頷くよりも先に、清四郎の唇が重ねられた。

ゆっくりと悠理の唇をついばみ、覆うように重ね、軽く吸われた。

優しい、キスだった。

今まで知っていた、激しく貪るようなキスではなく、ただ悠理の存在を確かめようとするような。




                    イラスト By ネコ☆まんまさま




「ん……」

悠理は清四郎の首に手を回し、応えるように清四郎の唇を軽く吸った。

何度か軽く触れ合わせた唇が、チュ、という軽い音を立てて離れ、二人は熱い瞳で見詰め合った。



「悠理、あなたを抱きたい」

うわ言のように囁かれた言葉に答える代わりに、悠理は清四郎の首を引き寄せて自分から唇を重ねた。

探るように入ってきた舌に自らの舌を絡め応えながら、ゆっくりと悠理はソファに横たわっていった。




*****

 


熱い肌が、触れ合う。

首筋を辿る唇に喘ぎながら、悠理は清四郎の制服の上着を脱がせた。

シャツのボタンを外すのももどかしく、剥き出しにさせた清四郎の厚い胸板に手を沿わせ、悠理は彼の肌に自分の肌を合わせた。

セーターを捲り上げられ露にされた胸に、清四郎の肌の感触が心地よい。

「はぁ……」

思わず、声が漏れた。



清四郎の長い指がブラの脇から入り込み、優しく胸の先端を弄る。

親指と人差し指で摘ままれ、悠理は熱い息を吐いた。

口づけが胸まで下り、そっと先端を含まれた。

「あっ、やっ!」

高く上げた声に清四郎が頭を上げ、窺うように悠理の顔を見た。



「いや、ですか?」

清四郎の問いに、悠理は小さく首を横に振った。

違う、そうじゃなくって―――

悠理は黙って清四郎の頭を掻き抱き、柔らかな胸へと導いた。

清四郎の舌と唇が、優しい愛撫を開始する。

小さく喘ぎながら、悠理は一筋涙を零した。



涙が零れたのは、清四郎の優しさの所為。

悠理の身体を、心を傷つけまいと、いたわるような優しい清四郎の手が、唇が、舌が悠理を泣かせた。

今までに、こんなに優しく抱かれたことはなかった。

激しく熱情をぶつけてくるようなセックスに慣れていた。

それに不満を感じたことはなかったけれど、今までに受けたどんな激しい行為よりも、この清四郎の優しい愛の仕草に、悠理は痺れるような快感を覚えた。



「ああっ!」

清四郎の舌が悠理の秘所を探る。

最も感じる場所を強く吸われ、悠理は清四郎の髪を掻き乱した。

「んん…あん、ああん!」

瞬間、何も考えられなくなる。身体が震え、力が抜けた。

「ああ……ん」

腕を伸ばし、悠理は清四郎を求めた。

清四郎が伸び上がり、悠理をぎゅ、と抱きしめた。

「悠理…」

ちゅ、ちゅ、と口づけられ、また抱きしめられる。

ゆっくりと、清四郎が中に入ってきた。



「ああ……」

清四郎が熱い息を吐き、緩やかに腰を揺らす。

いつもなら、悠理が耐えかねて懇願するまで焦らされるのに。

悠理は清四郎の肩を抱きしめ、合わせるように腰をゆすった。

もっと深く、清四郎を受け止めたくて。



「ああ、悠理…悠理…」」

見つめる瞳が、快楽に潤んでいた。

「ああ……ん、ん…せい、しろ……」

応える悠理の、声がかすれる。

「ああ、その声。その声が、聞きたかった。もっと、聞かせてください…あなたの、喘ぐ声を……」

「ああ…清四郎。見せて、お前の、顔…お前の、イク時の顔…」




その声が、聞きたかった。

その顔が、見たかった。

ただ、触れたくて、交わりたくて。

それだけの思いで、身体を交わし続けていた。



好きだから、触れたい。好きだから、交わりたい。

人間の、一番純粋で素直な欲望。

世界はそれを、”愛”と呼ぶ。




「悠理…悠理!」

「ああっ!清四郎!」

打ち付ける速度が増し、清四郎の背が撓る。

強く抱き合い、二人はひとつに交わり溶けていった……





*****





「ねぇ悠理。どうして急に、僕との関係を終わりにしようとしたんです?」

不意に、清四郎が聞いた。

情交後のけだるい余韻を楽しむかのように、悠理を抱きしめていた腕に力を込めながら。



「…お前が、みんなの前であたいのこと、女に見えないって言ったから…」

くったりと、清四郎の胸に頬を寄せながら、悠理が答えた。

「そんなこと、言いましたか?僕が?」

「言ったじゃん!最後に部室でヤッた後で!」

カッとなった悠理は、清四郎の胸を拳でどんっ、と叩いた。



「女に見えないって言うんなら、何であたいを抱くんだって思って…すごく、腹が立って…それで……」

あの時の腹立ちを思い出したのか、悠理は涙ぐんで俯いた。

「あの時…あ、あの時は、可憐がなんで窓を開けてるんだって言うから、それで…」

慌てて悠理の頬を両手で挟み、清四郎が言い訳をした。

らしくなく、言葉がもつれていた。



「あれは…皆に僕らの関係がばれたら困ると思って、とっさについた嘘ですよ」

「うそ……?」

悠理は呆然と、目を見張った。

そう。清四郎はいつも、眉一つ動かさずに嘘をつく。

そんなことは、知っていたのに…



「でも、僕の不用意な言葉があなたを傷つけたのなら、謝ります。すみませんでした、悠理」

悠理の瞳をじっと見つめ、清四郎は謝罪した。悠理は、こっくりと頷いた。

「もう、二度とあんなこと言わないで……」

小さな子供のように、呟いて清四郎の胸に顔を埋めた。

清四郎がその細い肩を抱きしめた。



「悪かった…でも、あなたが女に見えていない筈がないでしょう?その直前まで、腕に抱いていたのに」

頭の上から響いてくる、その言葉は、真実。

「悠理、他の人はどうか知りませんが、僕にとってあなたは紛れもなく女ですよ」

髪に落とされる、口づけ。




「とても魅力的な、僕にとってはたった一人の…女、です」




悠理が顔を上げた。

栗色の瞳が、きらきらと輝く。

その瞳に一瞬見惚れ、清四郎はそっと彼女に口づけた。

すぐに応えてくる、唇。

ゆっくりと悠理に覆い被さりながら、清四郎は悠理の甘い吐息を味わった。



そして、密やかに、淫らな音がまた響き始める。

ふたりがひとつになる、甘い行為によって。

 





end

(2005.11.21)


 

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