きゃあきゃあと、笑いさざめく声が聞こえる。
「また明日!」
「ごきげんよう」

窓の外では、
下校の挨拶が交わされている。


カーテンの隙間から見える、いつもの放課後の光景を横目で見ながら、清四郎は行為に没頭していた。
「ううん……」

かすかな喘ぎ声と、せわしない息。
腕の中の、女の体が揺らいでいる。


清プレジデント学園の生徒会室。
他には、誰もいない。


窓枠に腰掛けた悠理の腰は、ちょうど清四郎の腰と同じ高さにある。
ぴたりと腰を合わせ、悠理の足が清四郎の身体に絡みついていた。
清四郎は、ただひたすら悠理の胸に愛撫を繰り返していた。
彼自身を、悠理の中に埋めたまま。


ちゅ……胸の頂を、吸い上げる。
片手は胸を押しつぶすように揉み上げ、親指で頂を弄る。
歯で軽く刺激し、舌で唾液を塗りつける…


「はぅ…ああ……せいしろ…」
堪えきれなくなったのか、悠理が切ない声を上げる。
もぞもぞと、悠理の腰が動いた。
「どう…しました?」
清四郎は
黒檀の瞳に冷静な色を浮かべ、意地悪く尋ねた。
悠理の言いたいことなど、わかりきっているのだが。


「うご…いて」

上気して、赤く色付いた唇がねだる。
「悠理が、動けばいい」
そっけない答えを返し、首筋に舌を這わせてやる。
「ああ…やぁっ!お願い……」
懇願する声は、悲鳴に近い。
「…僕は、このままでも十分気持ちがいいですよ」
焦らす事を、楽しんでいるような声音。
悠理の潤んだ瞳が、悔しげに清四郎をにらみつける。
悠理は
きっと唇を噛み、俯くとゆっくり腰を動かしはじめた。
清四郎の横顔に、満足げな笑みが浮かぶ。
窓枠を掴んだ悠理の手に力が籠もり、動きが激しさを増していく。
白い足が、清四郎の腰を強く抱きしめる。


「あっ、はぁ……」

「ああ…いいぞ」
清四郎の手が悠理の細い腰を掴み、彼の腰がようやく動きを開始した。
「ふぅ…あっ、あっ」
悠理の喘ぎが短く、強くなる。
窓枠から離れた手が、清四郎の首筋に絡みつく。
互いに大きく身体を揺らしながら、二人は絶頂へと駆け上っていった。


 

*****




「……寒い」
行為の後、着衣の乱れを正した清四郎が窓を開けると、悠理が呟いた。
まだ窓枠に腰掛けたまま、ぼぉっと制服の上着のボタンも留めずに肌を露にしたまま。
「……空気を入れ替えないと。何をしていたかあいつらにばれてしまいますよ」
清四郎は
苦笑し、悠理の制服の前を引っ張って合わせた。
「さぁ、ちゃんと服を着直してください」
「…誰が脱がせたんだよ」
言いながらも悠理は上着のボタンを留め、リボンを結んだ。
そして、
ぽん、と窓枠から飛び降り、辺りを見回した。
「ぱんつ、どこ?」
「ここですよ」

色気の無い悠理の言葉に笑いながら、床に落ちていた下着を渡す。
清四郎の愛撫に湿った下着に、悠理の眉が寄せられた。
「ぐちゃぐちゃじゃん、気持ち悪い」
「すみませんね、次からは先に脱がせますから」
清四郎は澄ました顔でそう言うと、新聞を広げた。


「腹減った〜〜」
呟きながら、悠理はキッチンに向かうと戸棚を開けた。
中から数種類のスナック菓子を取り出して、清四郎のいるテーブルに戻る。
どん、と清四郎の向かいに腰掛け、ものすごい勢いで菓子を平らげだした。
新聞越しにその様子を眺め、清四郎は薄く微笑んだ。
「菓子屑を散らかさないで下さいね」
などと言いながら。


「ただいま」
しばらくして
ドアが開き、魅録、可憐、野梨子、美童が入ってきた。
「おかえりなさい、ダンス部の様子はどうでした?」
「いい感じだったわよ。まぁ、去年の大関・沢の鶴コンビには劣るけど」
「今年も優勝できるといいですわね」
「去年は大変だったよね〜」
4人はもうじき行われる近隣の学校とのダンス競技会の為に、ダンス部の視察に行っていたのだ。


悠理は無言で菓子を食べ散らかしながら、泰然と仲間達と話す清四郎を見詰めていた。
本来なら、生徒会長である清四郎も行くべきであったのに、
「頭痛がしますので魅録、代わりにお願いできますか?」
と言いながら、ちらりと悠理に視線を送ってきたことを思い出した。
「あたいも、パス」
と言いながら、悠理も清四郎に視線を返した。
暗黙の、了解。

―――あなたを抱きたい。
―――いいよ。



「あら、何か肌寒いと思ったら窓が開いてるじゃない」
可憐が、窓枠に近づきながら言った。
10月の初めとはいえ、今日は少し風が冷たい。
「ああ、悠理の食べている菓子の匂いが鼻につきましてね、開けたんです」



イラスト by ネコ☆まんまさま



清四郎はいつも、眉ひとつ動かさずに嘘をつく。
「確かに…お前な〜、清四郎は頭痛いっつってんだから、ちょっとは控えろよ」
「だって、腹減ってんだもん!」
魅録に小突かれ、悠理は抗議の声を上げた。


「いいですよ、魅録。頭痛はもう治まりましたし、悠理に気遣いなんて、はなから期待しちゃいません」
「そうよね、あら、お茶も入れないで。悠理〜、あんただって一応女なんだから、お茶くらい入れなさいよ」
「無駄ですわよ、可憐」
可憐の言葉に野梨子がくすくす笑いながら答え、二人でキッチンへと向かっていった。
ぷぅ、と頬を膨らました悠理に、美童がなだめるように声をかけた。
「でもさ、悠理は最近きれいになったよね。ひょっとして、恋でもしてる?」
ぶっ!とんでもない言葉に、悠理は思わず口の中の菓子を吹き出した。
「気色悪いこというなよ、美童!あたいが恋なんかするように見えるか?」
「そうだぜ。悠理がそんなタマかよ。なぁ、清四郎」
くっくっと笑いながら、魅録が傍らの清四郎に同意を求めた。


「そうですね。悠理が恋をするなんて…考えられませんよ。だいたい、どうやったら悠理が女に見えるんです?」
ばさりと新聞を下ろしながら、清四郎が答えた。
「自慢じゃありませんが、僕には悠理が女に見えたことなど一度もありませんね」
すっと、テーブルの上の新聞に視線を落としながら。
眉一つ動かさず、当たり前の口調で。

 



ぞわ。

悠理は、体中の血が沸きあがったような感覚を覚えた。
物も言わず、清四郎の口元を見つめた。
色の薄い、整った形の唇。
ついさっきまで、自分の身体を愛撫し、喘ぎ、啼かせていたその唇。
その唇で、お前はそう言うのかよ。
あたいなど、女に見えないと。


今までに味わったことのない、暗い怒りが悠理の心に広がっていった。
わかったよ。お前がその気なら。そんなことを言うのなら。



もう、お前とは寝ない―――



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「2 BECOME 1」シリーズ最終章です。
何故に白背景?それは昼間のお話だから。(笑)
ついに悠理たんがキレました。そりゃそうだろ、この清四郎ほんまに最低やもん。
しかし、この後清四郎にはつらい日々が始まりそうですねぇ。慣れた体を抱くことができなくて悶える絶倫男!(笑) 4か5くらいまでで、終われるかな〜?




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