―――あれは、僕たちが高校3年生の秋のことだったか。 珍しく、悠理と二人だけで出かけた事があった。
「退屈だよぉ。どっかいこうよ〜。」 いつもながらの悠理の呼びかけ。 だが仲間達はそれぞれの用事で忙しく、無論僕だって色々と用事があった。
「ねぇ、せーしろぉ〜〜〜」 「…仕方がありませんな」 甘えた声で僕を見上げてねだる悠理。 それまでも僕には彼女を突き放す事など出来たためしがなかった。
「運命ノヒト」 〜序章
よく晴れた秋の日に。 僕たちは電車に乗って出かけた。 別にどこに行こうという当てもなく。 ただ、思いついたところで電車を下りた。 駅前の商店街で腹ごしらえをし、そのあたりをぶらぶらと歩いた。 やがて広い河べりに辿り着いた。 ゆったりと流れる川面。きらきらと輝く秋の日差し。 悠理の瞳も同じように輝いていた。
一台の、乗り捨てられた自転車を見つけたのは悠理だった。 「人様のものを勝手に拝借するのは感心しませんな」 そう言いながらも僕は、嬉々として自転車をぐるぐると乗り回す悠理を微笑みながら見ていた。
「せーしろー。お前、自転車乗れんの?」 「僕に出来ない事があるとでも思ってるんですか?」 「意外とあったりして〜」 「失礼な。乗って見せますから替わってください」
もちろん自転車ぐらい乗れる。 僕は悠然と自転車を漕いでやった。 突然、悠理の顔が悪戯っぽく輝き、後ろの荷台に飛び乗ってきた。
「わっ悠理、やめろ!」 「へへ〜ん、ほらほらどうした?ちゃんと漕げよ〜」
悠理が後ろから自転車をぐらぐらと揺すぶる。 言っておくが、僕はかなり持ちこたえた。 しかしあいつが馬鹿力で揺らし続けるものだから、とうとう堪えきれずに自転車は横倒し。 僕らは二人揃って草の上に転がり込んだ。
「馬鹿!無茶苦茶するやつだな」 怒鳴りつけたが、ケラケラと笑い続ける悠理につられ、終いには僕も笑い出してしまった。 秋の風、草の匂い。 悠理の髪についた、枯れた草の葉。 草の上に座り、僕たちはいつまでも笑い続けていた。
夕暮れの帰り道。 ふと見つけた骨董店に、立ち寄ろうとする僕を引き止める悠理。 屋台から漂ういい匂いにつられる悠理を、引き戻す僕。 やっと帰りの電車に乗り込んだときには、もうすっかり日も暮れていた。
一つ一つ、電車は駅を通り越していく。 いつしか話すことも種切れになり、僕はなんとなく窓の外を眺めていた。 ノスタルジックな雰囲気をかもし出す、街の明かりが見える。 そして、不意に肩に感じた重み。 悠理が、僕の肩にもたれてスヤスヤと寝息を立てていた。 子供のように、邪気のないその寝顔。
―――愛しい。
何の脈略もなく、急に頭に浮かんだ言葉に僕はひどく動揺した。 愛しい?なんだ、それは。悠理はただの友人じゃないか。 何故急に、そんな事を考えたんだ? 電車が最寄の駅に着くまでの間、僕は自問自答を繰り返していた。 けれども明確な答えなど、出て来てはくれなかった。
駅に着いた僕達は、ごく普通に別れた。 いつもとなんら変わりなく。 「じゃあな」と、手を振りながら迎えの車に乗り込む悠理を見送った。 その後姿に、何か大切な事を言い忘れているような、そんな気がしながらも。
*****
それからも僕達の関係は進化も変化もなく、やがて卒業する日を迎えた。 聖プレジデントの大学部に進む友人達とは違い、ぼくは一人医大に進むことになっていた。 楽しかった4年間を思い出し、涙に暮れる女性達の中でも、悠理はひときわひどく泣いていた。
「うっ、うっ、元気で…な。せーしろー。うわ〜ん、えっえっ」 「よしよし。全く泣き虫だな、お前さんは。これからだって、いつでも会えるでしょうが」 いつものように悠理の髪をくしゃくしゃと撫で、僕はそう言って慰めた。 その言葉が守れる保証など、無いとわかっていたのに。
大学に進むと以前よりいっそう忙しくなった僕は、仲間達とはなかなか会えない日々を送るようになってしまった。 もちろん、隣に住む野梨子とは顔を合わせる事はあったし、魅録とメールや電話で話すこともよくあった。 しかし、もともと共通点の少ない悠理と会うことは、いつしか途絶えてしまった。
大学二年の夏に、悠理に恋人が出来た事を知った。
『悠理もとうとう、殿方とお付き合いをする気になったようですわ』 電話の向こうで、野梨子がそう言ってころころと笑った。 「あのじゃじゃ馬も、恋をするようになりましたか」 そう答えはしたものの、僕はひどく打ちのめされた気持ちになった。
―――その夜。 心に痛みを抱えて眠れない僕は、ようやく自分がずっと悠理を思い続けていたことに気がついた。 たぶん、あの秋の日よりもずっと前から… 今頃気付いても、もう遅いというのに。
それから幾年かが過ぎていく中で、僕もまた幾つかの恋を経験した。 付き合った女性達のことは、皆それなりに愛しいと思えた。 けれど、ふとした瞬間に浮かんでくるのは悠理の面影。 付き合う女性達の誰に対しても、あの秋の日に感じたほどの思いを抱く事が出来ないと悟った時、僕は自分の心を偽るのをやめた。 今更、彼女に打ち明けることなど出来はしないけれど。 ただこの思いだけは抱え続けていこうと決めた。
いつのまにかあの日からもう、五年もの月日が流れていた。 あの頃はあんなにも近くにいた彼女の事を、こんなにも遠くで思う日が来るとは。 今日もまた、僕は悠理の事を思いながら眠りに付く。
―――君は今、何を思うのだろう……
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……暗っ! 久しぶりのシリアス連載。序章から無茶苦茶暗いわ。 でも多分、ずーっとこんなうっとおしい感じでお話が進んでいくと思います。うじうじ清ちゃんです。 タイトル&妄想ネタはまたもやEXILE。(笑) 曲名を見た瞬間に3パターン位浮かんだ妄想の、最後に浮かんだパターンで進めて行きます。 あ!言っておきますが不定期連載です。それが出来るのが、自サイトのいいところ〜。(←殴)
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