5.
あれからお昼ご飯を食べてそのまま遊園地でまるで本当の親子の様に楽しんだ。 夕方になって菊正宗病院に戻ってくると、清太郎の両親が三人を出迎えた。 「スイマセン、遅くなってしまいました」 清四郎が謝ると桜川夫妻の方も、 「こちらこそ、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。おかげでお父様と今後のことについてゆっくり話し合うことができました」 と頭を下げた。 「そうですか、それは良かった。こちらも清太郎君と一緒でとても楽しく過ごせましたよ」 「そうだよ、おっちゃん。あたいも楽しかったよ。清太郎、また一緒に遊ぼうな」 前半は父親に、後半は母親に手をひかれている清太郎に向って悠理は言った。 「うん!約束だよ!」 何度も頭を下げながら親子は帰っていった。
「そんな顔しなくてもまたすぐ会えますよ。そしたら今度また遊びに行きましょう」 いつまでも清太郎が帰った方を見る悠理の頭を、ぽんぽんと優しく叩くと慰める様に言った。 「うん。そうだよな。は〜、それにしてもやっぱ子供ってかわいいなー」 悠理はすっかりいつもの笑顔を取り戻していた。 「うん?悠理も子供が欲しくなりましたか?なんならいつでも協力しますよ」 「な!なにハズいこと言ってんだよ!」 真っ赤になる悠理。 そんな悠理がかわいくて、さらに続ける。 「僕と悠理の子供かぁ、きっとかわいいんでしょうね」 「おい!清四郎!いい加減にしろよ!」 実は悠理も"子供っていいな"と思ったときなんとなく清四郎との子供を想像してしまっていた。 ただそれを本人から言われてしまうと、素直じゃない性格と清四郎の意地の悪い言い方に、どうしても正反対の言葉が出てしまう。 もっと素直になれたらなぁといつも後で後悔するのだが。
清四郎のことは決して嫌いではない。それぐらいの自覚はあった。 なんとなく魅録や美童とは違うという気もしていた。 それがはっきりと清四郎の傍にいられることが嬉しいと思うようになったのはつい最近のことだった。 やっと自分の気持ちを認めることができたのだ。 だから今朝、突然の事ですぐには理解できず何も言えずにいたが、プロポーズが冗談ではなかったと聞いて本当は嬉しかった。 それなのに清四郎からは「返事は期待していない、したい様にすれば良い」と言われてしまい、なんだか突き放されたような気がして悲しかった。 今までの自分の態度からすれば当然のこといえば当然の事だったと思う。 気がつけばいつも隣で優しく見守っていてくれたことに甘えすぎていたのかもしれない。 こんな悠理の気持ちなど全く気付いていない清四郎は、 「何もそんなに照れなくても」 「照れてなんか無いわい!」 「はい、はい。そういうことにしときましょ」 と、朝の真剣さは欠片も無く、いつもの様に悠理をからかって楽しんでいた。
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