「天使の微笑み(1)」

 

 

清四郎は午前中に行われる院長回診の終わった頃を見計らって父、修平の部屋である菊正宗病院の院長室のドアをノックした。
「親父・・・っと、失礼しました。来客中でしたか。また後で出なおします」
院長室には修平と、その向いに一組の親子が座っていた。
男の方は父親より少し若いぐらい、その妻であろう女性はさらに若そうであった。
女性の傍では4、5歳ぐらいの男の子が部屋をものめずらしげに見ている。
「清四郎、丁度良かった。お前に頼みがあったんだ、まぁ入りなさい」
一礼して出ていこうとする清四郎を修平がひきとめる。
「こちらは私の後輩でね、桜川隆也君。それと奥方の奈央さんと息子さんの清太郎くんだ」
「はじめまして、菊正宗清四郎です。父がいつもお世話になっております」
「いいえ、こちらこそ菊正宗先生には、お世話になりっぱなしで。今日もちょっと厄介事をお願いしに来たところなんですよ」
「そうでしたか。厄介事というのは患者さんのことですか?」
ならば自分の家族を連れてくる必要は無いのではと思いながら、清四郎は尋ねてみた。
桜川が口を開く前に修平がそれに答えた。
「こいつ自身のことでちょっとな。それより、私の頼みを聞いてくれんか。二人と話をする間、清太郎君をどこかへ遊びに連れて行ってやってほしいんだ。少し長くなるかもしれんのでね」
どうやら桜川本人が患者のようだ。少し顔色も悪い。親父に頼むぐらいだからあまり良くはないのであろう。そんな話をするところに子供がいては話しづらいか。そう思うと、
「わかりました。それではしばらく清太郎君をお預かりしますよ」
「申し訳ありません。連れてくるべきではなかったのですが、今日はあいにく誰にも預けることが出来なかったので」
と夫妻が恐縮している。
清太郎はと言えば、自分の相手をしてくれる人だとわかったのか、ソファーから降りると清四郎のところに走ってきた。
「いいえ、どうぞごゆっくりしてください。夕方には戻りますので。じゃぁ清太郎君行きましょうか」
清太郎を促し部屋から、出ていった。

「おにーちゃーん!早く早く!」
清太郎は部屋から出れたことが嬉しいのか、廊下を走っている。
「清太郎君、廊下は走っちゃいけません。それに大きな声も出しちゃいけないよ。ここは病気の人が沢山いるんだからね」
清太郎を捕まえて、注意する。
「よぉ、清四郎。お前も来てたのか」
声がした方に目をやるとそこには悠理と悠理の父万作が立っていた。

 

 

 

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