「婚約騒動のその後(1)」
昼休み、食事が終わって部室でそれぞれ好きな事をしてくつろいでいる。 「悠理、ちょっと調べたいことがあってね。悠理の家のコンピューターを使わせて貰えないか。 普通のネットじゃ限界があるんですよ」 一人だけ未だに食事を続けている悠理に清四郎は言った。 「あぁ、別にいいんじゃないか。うちにあんなものがあったなんて、お前が使うまであたいも知らなかったんだよ。たぶんにーちゃんぐらいしか使ってないと思うじょ」 「そうか、あれは豊作さんのだったのか。豊作さん今日いますか、持ち主に無断で使うわけにもいかないですからね」 「今日はうちにいるよ。でもお前なら別に勝手に使っても構わないと思うけどな」 「まぁとにかく今日うかがいますよ。どちらにしてもこの間本を忘れてきたみたいで、それも取りに行きたいし」
放課後剣菱邸にて。 「先に本を取ってきますよ。僕の荷物どこにおいてあるんですか?」 「それなら、あの時お前が使ってた部屋だと思うけど。とーちゃんもかーちゃんも、あの時は雲海のじっちゃんが怖くてあー言ってたけどさぁ、どうもまだ清四郎のこと諦めてなさそうなんだよな。部屋だって出ていったときのそのままにしてあるし」 悠理がため息をつきながら言うと、 「まさか、もう僕はこりごりですよ。とてもじゃないけどおじさんの真似はできそうもありませんからね」 「あたいだってイヤだよ。あれしろこれしろって出来ないことばっかり押し付けられるのは。あん時のお前、ホントにいやな奴だったぞ」 「僕も反省してますよ。今考えればきちんとした悠理なんて悠理じゃないですからね」 「おい、それどー言う意味だよー!あたいだって、やるときゃやるんだぞ」 「はい、はい」 「ただ強制されるのがイヤだったんだ」 悠理はまだしつこく言っている。 そこで清四郎はふと思いついたことを言ってみた。 「ねぇ、悠理。僕があの時悠理に何も強制しなければ、悠理はそのまま僕と結婚したんですか?」 「はぁ?」 「だって悠理が怒ってるのは僕が色んな事を強制したからでしょ。事実あの時だって強制するするまでは和尚の所にも行かなかったじゃないですか」 「そんなことあるわけないだろー!ばかな事言うな!」 「ばかな事ですかねぇ?」 「そんな事言ったらお前だって、そーだろー!」 「おや、何がですか?」 「あの時はとーちゃんがしばらく帰ってこないから、お前が剣菱動かす事になっただけで、 本当だったらもっと時間をかけて剣菱の勉強をするはずだったんだろ?あんなに急な事にならなかったら…。」 「僕にもっと余裕が出来て、僕達は上手くいったって事ですか?」 悠理は墓穴を掘ったことに気付いた。これではまるで自分が清四郎と結婚したかったみたいではないか。 清四郎はニヤニヤして自分を見下ろしている。 「そうかもしれませんねぇ。悠理の事が嫌いだったわけじゃないし。悠理だって僕を嫌ってたわけじゃないでしょ。」 調子に乗る清四郎。 「あたいはお前のそーいうところが嫌いなんだー!」 「今度は何も強制しませんから、やっぱり結婚しましょうか」
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