「はじまりの夜(2)」

 

 

 

「あたい、今みたいなお前をこのままほっとくなんてできない。言っただろ、あたいにできることなら何でもするって。だから・・・」
少し頬を染めてうつむく悠理。
「悠理、僕は悠理を愛しています。確かに抱きたいとも思うよ。だけど悠理は違うだろ?愛してもいない男にそんなこと言うもんじゃない。悠理にそんなことまで言わせたのは僕が悪いんだ、今日の事は忘れてくれ。心配しなくても大丈夫だから」
諭す様に言う清四郎に悠理はどうしようもなく悲しくなった。
「何でそんなこと言うんだよ。違わないよ!あたいだって、お前が好きなんだ!いくらあたいが馬鹿だからって、心配っていうだけで抱かれたいなんて思うわけ無いだろ!清四郎の馬鹿ヤロー!」
悠理の瞳からぽろぽろぽろぽろ大粒の涙が落ちていく。
「悠理が、僕を好き・・・?」
「あぁ、そうだよ!今まであたいの何見てたんだよ!さっさと気付けよな!この鈍感男!」
「・・・本当に?」
「何度も言わせんな!」
「・・く、くっくっくっ」
突然自嘲気味に笑い出した清四郎。
一瞬悠理の脳裏には「もしかしてまたからかわれていたのか」という思いが走ったが、清四郎の顔には部屋に来たときとは全く違う安堵の表情もうかがえた。
「な、なんだよ、清四郎。何がおかしいんだよ」
「自分が情けなくなったんですよ。勝手に不安になって、悠理を心配させて、泣かせた自分がね」
「不安?」
「てっきり僕は悠理に嫌われていると思っていましたからね。それでもまぁ仕方が無いと思っていたんですが、吉野川女史の結婚からこっち、いつかは悠理も他の男と結婚するんだということが僕の中でどうしようもなく不安になっていたんですよ。その時ちゃんと祝福できるのだろうかとね」
「清四郎・・・」
「こんな不安を抱えたままでも今夜悠理に会って、普段通りでいる事ができたならきっと、これからも自分の気持ちを押さえていけるかもしれない、そう思って会いに来たんですよ」
そんな清四郎に悠理は腹が立った。
「何でそうやって自分の中だけで決めちゃうんだよ。あたいがさっき引留めなければ、お前そのまま帰ろうとしたじゃないか!そんなのあたいの気持ちはどうなるんだ?勝手な事ばかり言うな!」
「そうですね。本当にその通りです。すまなかった」
清四郎は、悠理をきつく抱きしめた。
「悠理、もう一度言うよ。僕は悠理を愛してる。悠理を抱きたい。本当にいいか?」
真っ赤になる悠理の顔。
清四郎はその小さな顔を両手で挟むと、親指で涙を拭い今度は深く口付けた。
そのままベッドへと運ぶ。
お互いの気持ちを確かめ合う様に、体温を分かち合う様に永く激しく求め合う。
ふたりの時間は、今始まった。

 

 

 

 

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