「はじまりの夜」

 

 

 

日付がかわろうという頃、突然清四郎が悠理を訪ねてきた。
いつもとは違う清四郎の表情。何か思いつめたような顔をしている。
「ど、どうしたんだよ、清四郎!何かあったのか?」
そんな清四郎が心配になって顔を覗き込む。その瞬間。
いきなり清四郎が悠理を抱きしめた。
「すまない、悠理。もう少しだけこのままでいさせてくれ。」
どくん。
悠理の中で大きな音がした。
「清四郎・・・」
悠理も清四郎の背中にそっと腕をまわす。
しばらくの間悠理の首筋に顔をうずめていた清四郎だったが、やがて思い切るように一瞬抱きしめる腕に力を入れると、自らの身体を離した。
「どうしたんだよ。何かあったのか?」
もう一度、今度は静かに聞く。
「・・・大丈夫です。悠理に会って落ち着きました。びっくりさせてすみませんでしたね」
何があったかを言いたくない様子の清四郎に、悠理は納得はできなかったものの、それ以上追求するのは止めた。
「何があったのか、言いたくないんなら言わなくてもイイよ。でも、あたいにできることがあったらなんでも言えよな。あたいなんでもするからさ」
辛そうな清四郎にことさら明るく振舞う悠理。
「ありがとう。じゃぁ、もう行きますよ。突然スイマセンでしたね」
清四郎はそんな悠理に少しだけ笑顔を向けて部屋を出ていこうとドアのノブに手をかけた。
「清四郎!」
その笑顔が自分を安心させる為に無理から作ったものだとわかっている悠理は、思わず清四郎に駆け寄りその腕を掴んでいた。
「悠理・・・」
「本当に大丈夫なのか?まだ辛そうな顔してるぞ」
「悠理こそ、そんな顔しないで下さい。そんな顔をされたら、僕はこれ以上自分を抑えることができなくなってしまう」
清四郎は掴まれていない方の手をそっと悠理の顔に添えた。
どくん。
また聞こえる音。
「清四郎・・・」
優しくそっと、唇に触れるだけのくちづけ。
「・・・いいよ」
「悠理?」

 

 

 

 

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