「cold medicine」

 

 

 

「ぶぇ〜くっしっ!」

「カゼですか?悠理」

 

エアコンの効いた放課後の聖プレジデント学園生徒会室。

清四郎は、今日はめずらしく本来の生徒会の職務を遂行していた。

こういった作業は面白いものではない。よって、他のメンバーは早々に逃げ出していた。

だが実は清四郎にしてもその方がありがたかった。

 

理由は二つ。

他のメンバーがいても、仕事がはかどらないことは目に見えている。それならばひとりでやったほうが効率がいい。

そしてもう一つは・・・。

「清四郎!まだ終わんないのかよ。早くしろよー」

先ほどのくしゃみの元、恋人である悠理と二人きりだったから。

 

「そうしてほしいのなら、ちょっとは手伝ってほしいですね」

「だーって、あたいが手伝っても、邪魔なだけだろ。早くしないと映画のあとメシ食いに行くのが遅くなるじゃないかー!ぶえっくしゅん」

「ハイ、ハイ。わかりました。でもそんなんで本当に行けるんですか?」

「この部屋冷え過ぎじゃないのか?さっきからなんか妙に寒く感じるんだけど」

鼻をすすりながら、腕をさすっている。

「僕はそうでもないですけどね。熱でも出てきたんじゃないですか」

心なしか顔も赤い様に見える悠理の額に手を当ててみる。

やはり少し熱があるようだ。

「悠理、やっぱりカゼですよ。映画は今度見に行きましょう。今日はもう帰って寝た方がいいですよ」

「大丈夫だよー。別に身体がだるいわけじゃないし。とにかく待ってるから早く終わらせろよ」

「仕方ないですねー。じゃぁ薬を飲んでそこの仮眠室で休んでてください。どうせ後2時間はかかるでしょうから」

「わかった。そうするよ。でも早くしろよな」

「しつこい。ほら、さっさと薬を飲む」

悠理は薬箱を取りに戸棚に向った。

 

「白い紙に包んである粉薬が風邪薬ですからね。間違えるんじゃありませんよ」

書類を見ながら声だけかける。

「わーってるよ。え〜っと白いの、白いの。・・・ないじゃん。ん?でもこれも粉薬だよなぁ。どうせカゼって言ってもたいしたことないんだし、これでいっか」

悠理は赤い紙に包まれていた粉薬を口に含むと一気に水で流し込んだ。

 

書類から顔を上げると、悠理が戸棚から仮眠室に向うところだった。

少し足元がふらついているような気がしたが、熱の所為だと思いさして気にしなかった。

(あれじゃやっぱり今日はもう無理だな。後で悠理の家に電話して迎えをよこしてもらうか)

今日は二人で出かけることにしていたので、剣菱家から向えは来ていなかった。

「悠理、お前やっぱり今日は帰ったほうが・・・」

清四郎が仮眠室のベッドに近づくと、何故か悠理が制服を脱いでいるところだった。

スカートがストンと音を立てて落ちる。

「あぁ、清四郎。あたいどうしちゃったんだろ。なんかめちゃめちゃ身体が熱いんだ」

「ゆ、悠理!なんて格好をしてるんだ。早く服を着ろ!」

我に返った清四郎は慌てて落ちている制服を悠理に押し付ける。

「なぁに、照れてるんだよぉ。いつもは自分が脱がすくせに」

どうも様子がおかしい。普段の悠理ならこんなこと絶対に言わないはずだ。

そもそも熱いからと言ってこんな所で下着姿になるなんて考えられない。

まるで酔っ払っている様だ。

清四郎は何かを思いついたように、悠理が先ほど飲んでいた薬の包み紙を確認しに行った。

そこにあったのは赤い紙。

自分は確か白い紙と言ったはずだ。

 

急いで悠理のところに戻るとすでにパンストは足から離れようとしていた。

「悠理!お前赤い方の薬を飲んだのか!」

「う〜ん、そうだったかなぁ〜。それよりホントに・・あっつ・・」

ベッドにあがるとぺちゃんと座りこんだ。

「なぁ、清四郎。おまえもこっちにこいよ。シーツが冷たくて気持ち良いぞ」

とにかく悠理を正気に戻さなくては、そう思い清四郎はベッドへと近づいていった。

悠理が飲んだ薬は以前、富貴茂というエロ政治家を懲らしめるのに使った薬。

もちろん風邪薬なんかではない―――「催淫剤」だった。

 

あの時、薬の残りを無理やり飲まされそうになったのを何とか取り戻したのだが、家に置いておくわけにもいかないので、生徒会室の薬箱に入れておいた。ここならば自分以外の人間が勝手に薬をさわることもないだろうとタカをくくっていたのだ。

その薬をまさか悠理が飲んでしまうとは。

 

悠理は相変わらず熱そうである。

清四郎が近づくと、甘える様に腕を伸ばしてきた。

「清四郎・・・」

わずかに震えている睫。

(・・・・これは・・・)

清四郎の頭の中では今、何とか正気に戻そうと思う理性と、自分の中の男という本能が激しくぶつかり合っていた。

だが、薬の所為か上気した頬。

潤んだ瞳にしっとり濡れた唇。

その唇からこぼれ落ちる自分の名前。

愛してやまない女のこんな姿を見て、理性が保てる男がいたらぜひ弟子入りしたい。

 

気付いたときにはベッドに片膝を乗り上げて悠理の腰を引き寄せその唇を塞いでいた。

肌に触れるのがこれが初めてというわけではないのに、清四郎は自分の身体中の血液が一気に沸き立つような感覚を覚えた。

悠理は唇を離すと、清四郎の首に巻きつけていた手を襟元まで滑らせていった。

「お前も脱げよ」

聖プレジデント学園の男子生徒の制服のワンポイントである、蝶ネクタイをはずす。そのままシャツのボタンをひとつずつはずし、鍛えられた清四郎の肌に音を立てて口付けていく。

清四郎はそんな悠理の顔を上を向かせ、さらに口づけた。

舌を絡めあうその間にも悠理の手は清四郎のシャツのボタンを外すべく胸や腹部の辺りをまさぐっている。

清四郎はそのまま悠理をゆっくりベッドへと押し倒した。

 

 

 

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