『コトバ ガ ツウジナイ』 By hachiさま
言葉が通じない。
言葉が通じない。
僕と彼女は、言葉が通じない。
同じ国に生まれて。 同じ言語を話しているのに。
僕と彼女は、言葉が通じない。
同じ学び舎で過ごし。 同じ教諭に学んできたというのに。
僕と彼女は、言葉が通じない。
僕と彼女の思考は、まったく違う。 だから、同じ言葉を話しているはずなのに、話が擦れ違う。 同じ言葉でも、違うふうにしか捉えられない。
僕が伝えたいことは、彼女に通じない。 彼女が伝えたいことも、僕には通じない。
同じ時間を共有してきたのに。 同じ危機を掻い潜ってきたのに。
僕と彼女は、言葉が通じない。
いつまで経っても、僕と彼女の思考は平行線を辿っている。 分かりたいのに、分かり合えない。
彼女が好きなものは、沢山知っているのに。 彼女の楽しみも、沢山知っているのに。
でも、僕には、彼女が好きなものがどんなふうに楽しいのか、楽しいことがどんなふうに好きなのか、理解できない。 彼女も、僕が好きなものや楽しいことを知っているけれど、それがどんなふうに楽しくて好きなのかは、理解できない。
同じ言葉。事柄。形容詞。 同じはずなのに、僕と彼女の捉え方はずれている。
だから、僕と彼女の言葉は、いつまで経っても通じないのだ。
もどかしい。
もどかしい。
もどかしい。
もどかしい。
だけど、このもどかしい気持ちを彼女に伝える言葉は、僕には見つけられない。
言語構造は同じはずなのに、僕たちは言葉を通じさせられない。
平行線を辿る思考は、永遠に交差しないのだろう。
だけど。
「せーしろーっ!見て見て!」
彼女が弾けそうな笑顔で振り返る。
「ん?どうしました?」
僕は、彼女の少し後ろで立ち止まった。
「すっごく空がきれいだよ!」
彼女が指差した先には、抜けるように青い初夏の空。
僕も彼女と同じように空を見上げて、呟く。
「本当に、綺麗な空ですね。」
僕と彼女は、何気ないけれど、大事なことを共有できる。
同じ空を見て、綺麗だと語り合うことができる。
言葉が通じなくても、愛し合うことができる。
僕が後ろから抱き寄せると、彼女は首だけ曲げて、僕を見た。
二人で微笑み合い、また、青い空を見上げる。
僕と彼女は、不器用だけど、僕たちなりに、愛し合っていける。
end
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Material By M+J さま