Sweet rain by にゃんこビールさま
雨がずっと降っている 音もなく、絹糸のような雨 外は明るくなっているからもうすぐ上がるのだろう 湖を見下ろせるホテルは雨に包まれて 現実から隠れているようだ ただ優しく降り注ぐ雨音だけが聞こえる
洗った髪を拭きながらバスルームを出た タオルの隙間からベッドを伺う 寝乱れているシーツには愛し合った余韻が残っている 何度も絶頂に達した愛しい人の姿はない ベッドをすり抜けて行った場所には見当が付く 特にこんな雨が降っている日は
天井まである大きな窓の前に立っている バスルームから出た僕にも気が付くこともなく たた窓を伝う雨粒をじっと見ている 窓の外には静かな湖面 その湖にベールのように降る雨 そして静かに窓の外を見ている彼女 後ろからでもしなやかな体のラインがわかる まるで一枚の絵画を見ているようだ
「外を見ているんですか」
まるでそのまま雨のベールに包まれていきそうで 僕は後ろから華奢な体抱きしめた 振り返った薄茶な瞳ははにかんだように笑った 笑ったり、怒ったり、泣いたり、表情を変える大きな瞳 僕を虜にする魅惑的な瞳
「うん 雨見てるんだ」
そう答えると細い指で窓をすべり落ちる雨を追う さっきまで僕の肩や胸を辿っていたその細い指 ベッドではあんなに艶めかしいのに 今はこんな子供のように雨を見ている あまりにも愛しくて笑みがこぼれる あまりにも愛しくてくちづけをする 甘い香りがする髪に 柔らかい耳元に 光るくちびるに 細い首すじに 口元から熱い吐息が漏れる ふんわりと体を僕に預けてくる
「いつからこんなに雨が好きになったんですかね」
顎を親指で上に向かせてくちづけをする 息を付くために開いたくちびるから舌を入れる 「ん…」 優しく、そして深く 雨粒が流れる窓から手を離し、僕の髪に手を差し入れる 雨より僕を見るように 雨より僕を触れるように 優しく、そして深く
いつからこんなに彼女を愛していたのか いつからこんなに彼女なしではいられなくなったのか 出会った瞬間からかもしれない どんなことをしても一緒にいたかった 誰よりも一番そばにいたかった なにがあっても離れることができない 彼女がいない人生など考えられない ふたりが出会ったのは運命 ふたりが愛し合うのは天命
片手をバスロープの襟元に滑り込ませる なめらかな肌の感触 腰に置いた手で紐を解く 細い肩を撫でるようにバスローブを脱がす ストンと音を立てて足元に落ちた ふたりを隔てるものは何もない ふたりを覆うものは何もない 触れ合う肌と肌はぴったりと吸い付く それは生まれる前からひとつだったみたいに
彼女に愛を告げた時も雨だった まるで僕の想いのように激しい雨だった もう自分の気持ちを抑えることができなかった 他の男に彼女を取られるなんて 考えただけで気が狂いそうだった 雨の中に飛び出した彼女を抱きしめた 「愛してます 誰よりも ずっと あなただけを」 どこにも行かせたくない 誰にも渡したくない 振り返った彼女の瞳にも雨が降り出していた 「本当? 信じていいの?」 そう言って僕に抱きついた 激しい雨音の中でもはっきり聞こえた愛おしい声 「あたいも愛してる」 雨に守られてかけがえのない愛を得た
雨で反射して窓は鏡のようになっていた 一糸まとわない彼女が映っている 透き通るようなきめの細かい肌 幾度もの愛撫で形よく膨らんだ胸 その先端にはピンク色の堅くなった果実 くびれた細いウエスト 薄い茂みの奥には泉が溢れている 少し筋肉質な長い脚 ひとつひとつ確かめるように手を這わす 空中に漂う水分でいつもより匂い立つ 窓に映った体は桜色に染まってきた 耳元にくちづけをしながら囁く 「とても綺麗ですよ」 「あ…ん」 甘い吐息で返事をした
こんなに甘美になるなんて思わなかった 無邪気で大人しくしてることなんてなかったあの頃 元気よくていつも遊ぶことばかり考えてた 夏の太陽のように笑顔が輝いていた そんな少年みたいな少女が艶容な女性になった 世の中の人たちに自慢したくて 世の中の人たちから隠したい
「もう… だめ…」 繰り返されるくちづけと愛撫に体が震えている 繰り返すくちづけと愛撫だけでは我慢できない 抱き上げてソファに連れて行く 向かい合うように膝の上に座らせた 柔軟な細い脚がすらりと広がる ゆっくりと体を沈めて熱くなった僕を招き入れる 肩に掴まり背中を反らせる 弾む胸を下から揉み上げ色づいた先端を口に含む 「はぁ… あぁ…」 細い腰を掴み、ゆっくりと動かす 恍惚に揺らめく瞳から一粒の涙 絶頂に達するたびに彼女の瞳から雨が降る
「なぜ泣くのですか…」
そう聞くたびに甘美な声で答える 雨音とふたりが繋がっている水音と快楽の声 優しく、激しく、律動は早くなる 「ああ…ん はぁ… あっあっ…」 甘い言葉も、瞳から流れる雨もすべて吸い取る 雨も 愛も
「あなたは僕にとって甘雨だ…」
潤し育ててくれる雨 いつでも どんなときでも 付かず離れず ずっとそばにいてくれて 溢れんばかりの笑顔を向けてくれる
天国に昇らせるのも、地獄に堕とすのも 善人にするのも、悪人にするのも 心優しくなるのも、醜い心にするのも 天使に導かれるのも、悪魔に魂を売るもの 明るく、愛おしく、無垢で、純粋で、強くて弱い 無償の愛に満ちたこの人だけだ
潤んだ瞳で真っ直ぐ見つめる 「あたいも… 愛してる」 そう言って僕の頬を両手で包む くちづける瞬間に呟く 「愛してる 清四郎」
まだ雨は止まない
―――Fin
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