「雨」 By にゃんこビールさま
外では静かに雨が降っている 糸のような細い雨 雲の上で雨に出番を奪われた太陽が その存在を主張しているように 雨が降っているのに外は明るい
昔は雨なんて大っ嫌いだった 雨なんて降らないで ずーーーっとお天気だったらいいのに そう思っていた 雨が降ったら外に遊びに行けないし 太陽の光を浴びないと元気が出ない だから雨は大っ嫌いだった
でも今は雨も好き 今日みたいに静かな雨も 雷を轟かせる激しい雨も 霧のように軽い雨も 大粒な雨も 細かな雨も どんな雨でも好きになった
「雨が降らなかったら何も育たないでしょう?」
そう物知りの友人が言った 知らないことなんて何もない いつも人のことをからかって、バカにしていた友人
「雨が降るから草や木が育ちます。わき出る水も川も海も元はすべて 雨なんですから」
雨が降って機嫌が悪くなると たくさんの雨の名前を教えてくれた 春時雨 翠雨 喜雨 秋霖 時雨 天泣 寒九の雨… 雨なんてどれもいっしょだと思っていた 雨なんて雲から水滴が落ちるだけだと思っていた
「雨にこんな名前を付けるなんてとても日本人らしいでしょう」
日本人らしい黒髪と黒い瞳の友人が微笑んだ いつも意地悪ばかり言う友人が とても優しい笑顔で教えてくれた でもその時は、こっちがどきどきするような とっても綺麗で優しい笑顔だった
それから雨が好きになった 今日の雨はなんていう名前なんだろうって それに今は雨になると…
「外を見ているんですか」
優しい声と後ろからふんわりと抱きしめられた 振り返るととても優しい黒い瞳 真実を見抜くような黒い瞳 この瞳には絶対に逆らえない 瞳が合うとにこっと微笑んだ
「うん 雨見てるんだ」
そう答えるとくすっと笑う そして髪にキスをしてくれる 耳元に 頬に くちびるに 首すじに
「いつからこんなに雨が好きになったんですかね」
雨の日は 家でふたりっきりになれるから 雨を見ながら包んでくれるから 雨に濡れた空気の中でいつもより匂いを感じられるから 雨のように優しく抱いてくれるから 雨のように激しく抱いてくれるから だから 雨は好き
雨のように愛が降り注がれる 雨のように愛に応えて涙が溢れる
「なぜ泣くのですか…」
熱い吐息の合間に問いかけられる わからない 自分でもどうして涙が溢れるのか こんなに人を愛することを知った悦びなのか 無邪気なあの頃に戻れない哀しさなのか
たくさんの雨の名前を教えてくれた あの頃のことを思い出すから? 毎日暇をもてあまし、無駄に時間を過ごしていた あの頃のことを思い出すから?
どんなに考えても 瞳から涙が溢れる
答えるかわりに涙がひとすじ 瞳から流れる雨を優しくくちびるで拭ってくれる 身体で受け止めても 受け止めきれない 雨も 愛も
「あなたは僕にとって甘雨だ…」
潤し育ててくれる雨 いつでも どんなときでも 付かず離れず ずっとそばにいてくれて なんだって教えてくれた
雨が大好きになったように 雨にたくさんの名前があるのを知ったように 愛していることを知った 雨のように 静かで、激しく、冷たく、温かく、優しく、知に溢れ 慈愛に満ちたこの人を
「あたいも… 愛してる」
end
にゃんこビールさまからいただきました〜。なんともしっとりとした、ステキなお話です。
「あえて名前は伏せてますけど、主人公はもち悠理です。
そして雨の話をしてくれたのは清四郎。
で?今、悠理を抱きしめているのは?
清四郎?それとも違う人?誰?(笑)
ちなみに「甘雨」って恵みの雨のことです。
なかなか色香がある名前だと思いませんか?」
と、いうことですが、もちろん清四郎よね、ねっ、ねっ♪
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