カチャリ……バスルームのドアを開け、清四郎は部屋に入った。
ここは剣菱邸の悠理の部屋。


「ふう……」
シャワーを浴びて一心地着き、清四郎は素肌の上にパジャマを羽織る。
シンプルな、コットンの白いパジャマ。
熱い湯を浴びた後なので、前のボタンは留めずに開けたまま。
いつもならバスローブを着るところなのだが、なぜかどこにも見当たらなかったのだ。


濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながらベッドに向かう。
「悠理……」
優しい声でその名を呼ぶ。
彼の愛しい人は答えない。
「……寝てしまったんですか」
少し、落胆。さっきまで試験前のお定まりのお勉強。
ようやく一段落着き、さてこれからはお楽しみの…と思っていたのに。



愛しい悠理は、広いベッドの真ん中で枕を抱きしめて眠っている。
「枕なんか抱かなくても、僕がいるのに」
悠理が抱きしめているものには、それがたとえ枕でも嫉妬してしまう。
そんな自分の業の深さに、溜息交じりの苦笑が漏れる。


「悠理…」

ベッドの縁に膝をついて身を乗り出し、愛しい人の名をその耳元で囁く。
「ん……」
耳朶を噛むようにして囁かれた声に悠理は少し身じろぎし、うっすらと目を開く。
「…せーしろ」
自分の顔を覗き込んでいる端正な面立ちにゆったりと笑みを返し、彼の名を呼んだ。
いつもはオールバックに整えられている前髪が額に落ち、黒い瞳が半ば隠れている。
普段は理知的な光を湛えたその瞳が、今は熱情を映し出している。
ボタンを留めずにパジャマの袖を通しただけの姿。はだけた胸元。
鍛え上げられた胸筋に滴るのは汗か、水滴か。
男の艶かしい姿に、悠理の身の内が震えた。


つ……と悠理のしなやかな指先が胸の水滴を辿る。
逞しい胸元を通り、鎖骨に沿わせる。
そのまま肩へと手を滑らせて悠理は彼の身体を引き寄せた。重なる、唇……。
「ん…悠理…」
悠理からの口づけに清四郎は眼を細め、片手を悠理の髪に梳き入れて頭を抱く。
何度も口づけ、その深さを増しながら悠理に覆いかぶさる。
抱きしめ合い、足を絡めあう。
お互いの身体をぴたり、と合わせた。
何物も、二人を隔てるものが無いように。


「あ…ん……」

衣服を通してもわかる、下腹部に当たる男の欲望の熱さと固さに悠理の身体も熱を持つ。
堪らなく、この男が欲しくなる。
「せい、しろ…」
ようやく開放された唇で喘ぐように男の名を呼ぶ。
「僕が…欲しいか?悠理」
意地悪な台詞。だけどそう囁いた彼の瞳は限り無く優しくて。
その瞳に引き込まれるように悠理は答える。
「ん…欲しい。欲しいよ…あっ…せいしろうっ……」
最後までその答えを聞くことも無く、清四郎は悠理の白い喉に強く吸い付く。
欲しくて堪らないのは彼とても同じこと。
性急に手が動き、悠理のTシャツを脱がせ、ブラも外してベッドの脇に放り投げた。
舞い落ちるそれが、まるで情交へのスタートフラッグででもあるかのように。



「あ…はぁ……うん…う…ん……」
吐息のように漏れる喘ぎ声を聞きながら、清四郎は思うままに悠理の身体を貪る。
細い肩を抱きしめ、鎖骨に口づけを落とす。
柔らかく小さな丘を舌が駆け上り、淡く色付いた頂を唇と舌で刺激する。
「はぁんっ…」
びくん、と反った背に手を差し入れて大きな掌で撫で擦った。
悠理が応えるように清四郎の脇腹から背中に手を滑らせる。
清四郎の逞しい背筋の躍動を感じた。
清四郎の手が悠理から離れ、悠理は思わず懇願の声を上げる。
「あ…やんっ」
「…わかってますよ」

清四郎は微笑み、邪魔なものを取り去るように着ていたパジャマを脱ぎ捨てた。
左手で悠理の胸をゆっくりと押し付けるように揉みしだき、右手は悠理のくびれたウエストに滑らす。



穿いていたショートパンツの中に清四郎の手が忍び込み、薄い布地越しに悠理の敏感な場所に触れる。

「あん…」

堪らず悠理は足を閉じようとした。
だが間に入れられた清四郎の足がそれを許さない。
清四郎の長い指がショーツの脇から入り込み、敏感な谷間を辿る。
「う、うぅん…や……あっ、はぁ……」
下から上へ、上から下へ。何度も何度も。
快楽の芽を探し出し、押しつぶすように刺激する。
じわり…透明な泉が湧き出した。


清四郎は与えられる快楽に潤んだ悠理の瞳を見つめながら、ちゅ、と唇に口づけた。
「綺麗だ、悠理」
そう囁いて何度も口づける。悠理はうっとりと目を閉じて軽く顔を横に振った。
清四郎の指先は、悠理を絶頂に導く為に動き続けている。
「あ…あっ…もう…もう…せいしろっ」
すんなりとした足がシーツを滑り、一瞬強張ったかと思うと弛緩した。



力を失った悠理の身体を一度ぎゅっと抱きしめ、清四郎は自分と悠理を生まれたままの姿にした。
悠理の顔の横に両手をついて覆いかぶさり、もう一度軽くキスをする。
「ん…せいしろ。好き。大好き」
悠理が清四郎の首に手を回して抱きついた。
その余りにかわいい様子に、清四郎は思わず微笑む。
「僕も、…大好きですよ。悠理、愛してる」
そう言いながら清四郎は熱く猛った自分自身を彼女にあてがい、一気に突き入れた。


「あっ!ああんっ」
「く……悠理、そんなに締め付けるな」
身体の真ん中に快感が走り、思わず清四郎は悠理の腰を抑える。
「や…そんなこといったってぇ……」
悠理は清四郎の腰に自分を押し付けるようにゆっくりと動かしている。
清四郎もそれに答えるようにゆっくりと律動を始めた。
じわり、と清四郎の背中に汗が滲む。


「ふ…はぁ……いいぞ、悠理…」
「ん……はぁ…やん…あっ…あっ…ああんっ」
悠理の嬌声が大きくなっていく。
清四郎は悠理の片足を自分の脇に抱え込み、律動を早めた。
清四郎の洗いざらしの髪が激しく乱れ、漆黒の瞳が情欲に潤んでいた。
痺れるような絶頂感が押し寄せてくる。頭の中がまっ白になり―――



「くっ…ああ……」
「んんっ…ああっ!」
悠理が清四郎に強くしがみつき、二人は混沌へと落ちていった。

             


                    *****



「…なんか、ノド乾いた」
放心状態から醒めた後、悠理は隣でまだ少し荒い息をしている恋人にそう言った。
甘えるように身体を擦り付けながら。
「…何か取ってきますよ」
清四郎は身体の絡みついた悠理の腕を解いて起き上がると、グレーのボクサータイプのパンツを穿き、パジャマの上だけを羽織って冷蔵庫に向かう。
普段の禁欲的な生徒会長の顔からは想像もつかない、男の色気を漂わせる後姿。
悠理の目がうっとりと猫のように細められた。
こんな清四郎はあたいしか知らない。
誰にも教えない。
清四郎は―――あたいだけのもの。



清四郎は部屋の端にある冷蔵庫からスポーツ飲料の缶を取り出す。
ベッドに戻りながらプルトップを空け、一口飲んだ。
悠理が、かすかに微笑みながらそれを待ち受けている。
「ほら、取って来ましたよ」
ベッドの脇に立ち、缶を差し出すが悠理は受け取らない。
いやいやと、小さく首を振りながら、
「力抜けちゃって起き上がれない。せーしろ、飲ませて…」
「…仕方ありませんね」
甘えた声でねだる恋人に、清四郎は苦笑しながらも突き放すことなど出来はしなくて。


ベッドの端に腰掛け、缶の中身を一口、自分の口に含む。
身を屈め、悠理の紅い唇に口づけてそっと口中に流し込んでやる。
「ん…」
悠理の喉がこくり、と動く。

「おいしい…」
呟いた唇から雫が零れ、顎を伝い喉へと流れ落ちた。
その雫を清四郎の唇が吸い取る。
性急な手が悠理の胸を鷲掴みにし、突端へと唇が降りてきた。


「やん…また?」

悠理の呟きに、清四郎は苦笑して答える。
「何言ってるんです?人を煽っておいて…まだ、欲しいんでしょう?」
そっと閉じられた瞳と、わずかに開かれた唇がその答え。
喉の渇きを癒すかのように、二人はまた求め合い、絡み合った。



何度求めても、飽く事の無い渇き。
満たされたいから、渇きを癒したいから、二人は求め合う。
それは、お互いを強く欲するが故の―――渇望。





end
(2005.9.1 加筆修正)




ぽちさんちの絵板に降臨し、「伝説の絵板殺人事件」へと発展した、たむらん画伯の「風呂上り清四郎」に萌えて妄想したSSで、ぽちさんちの裏に載せていただきました。
と、いうかこの作品は、妄想テレパシーにて感知した、皆さんの脳内に浮かんだ情景を、忠実にまとめさせていただいたものです。(笑)
題名を決めるとき「なんかいい英語ないかな〜」と、Web辞典で「欲望、情欲、衝動…etc」と引きまくった結果、「渇望=thirst」に決定しました。(笑)

 

 

 


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Material by ミントBlue さま