「雫。」〜Pain 番外編〜 作:hachiさま
ぽたり。ぽたり。 清四郎の心に、黒い雫が滴る。 ぽたり。ぽたり。 僅かずつ、しかし確実に、黒いものは広がっていく。 ぽたり。ぽたり。 心が、闇の色に染まる。
ぽたり。
穢したい。
汚したい。
侵したい。
すべてを、奪い尽くしたい。 彼女から、爛漫とした笑顔を。純粋なものを。無垢な、身体を。
ぽたり。ぽたり。
いっそ―― 自分自身も、壊してしまいたい。
腕の下で、悠理が哭いている。 悦んでいるのか、哀しんでいるのか、はたまた、苦しんでいるのか。 清四郎には、区別がつかない。 ただ、心はさておき、身体が楽しんでいるのは、確かだった。
青い黎明の中、悠理は喜悦のあまり顔を歪ませている。 清四郎は、そんな彼女の表情を眺めながら、リモコンを使ってカメラを操作していた。
ぽたり。ぽたり。 黒い雫が、心を染める。
愛しいから、壊したい。 愛しいから、哭かせたい。 愛しいから、滅茶苦茶にしてしまいたい。
閃光に、汗に塗れた女体が光る。 悦びに染まった瞼が、鮮やかに浮き上がる。
このまま、彼女を閉じ込めておきたい。 否。 あらゆる人々に、二人のこの姿を晒したい。 そして、彼女が自分のものだと、高らかに宣言したい。 彼女は、清四郎から貫かれ、我を失うほどに悦んでいる。 そうさせているのは自分だと、世間に知らしめてやりたかった。
絶頂を迎え、弛緩した彼女の肉体を、さらに穿ちつづける。 ぐったりした彼女を抱え、体位を変える。 わざと結合部を露わにして、リモコンでシャッターを切る。
頭は、妙に冴えていた。 自分がどれだけ酷いことをしているのかなど、誰よりも承知していた。 それでも清四郎は、写真を撮りつづけた。 写真を見た悠理が衝撃を受けるよう、幾度も体位を変えて。
ぽたり。ぽたり。 黒い狂気が、理性をも染め上げる。
表裏一体の、愛と、狂気。 それも仕方のないことだ、と、思う。 なにせ、清四郎は、狂おしいほど悠理を愛しているのだから。
ぽたり。ぽたり。 いつの間にか、清四郎の眼から、涙が溢れていた。
その涙は、悠理へ向けた、純粋な愛情の残骸だった。 残骸すら体外に押し流された今、清四郎に残っていたのは、狂気だけだった。
「・・・悠理、愛していますよ。」
狂おしいほどに。
ぽたり。ぽたり。 黒い雫は、いつの間にか、清四郎の心を真っ黒に染め上げていた。
…end?
|
Material By Four seasonsさま