熱い身体の重みと、首筋にかかる吐息で意識が覚めた。

清四郎に抱かれた後は、いつもこうだと悠理は思った。

抱かれている最中は、身体の中心から絶え間なく湧き上がってくる快感のせいで、何も考えられなくて、ただ声をあげながら清四郎にしがみついているだけだ。

 

 

―――上手いよな、おまえ。

力なく投げ出していた手をゆっくりと上げて、清四郎の背中に回す。

―――ちょっとずつちょっとずつあたいを追い上げて、シャンパンの泡がはぜるみたいな軽いエクスタシーを何度も感じさせて、そんで最後にどーんと気が飛んじゃうくらいにイカせるんだから。

口には出さずにそんなことをぼんやりと考えながら、手のひらで大きな背中をさすった。

しっとりと汗の浮かんだ肌の奥の、筋肉がゆっくりと隆起しはじめ、清四郎が身体を起こした。

 

「……」

乱れて落ちた前髪を片手でかき上げながら、窺うような目で悠理を見つめてくる。

形のいい唇から軽く息を吐き出し、清四郎は低い声を漏らした。

「気持ち、よかったですか?」

 

 

答えようと開いた口から言葉が出ず、悠理はぎゅっと目を瞑って頷いた。

目を開けて清四郎の顔を見ると、黒い瞳が優しい光をたたえて悠理を見ていた。

ずん、と胸が痛む。

この目を見るたびに、何かを言いたくてたまらない気持ちになるのに、その言いたい「何か」がわからない。

わからないから、言葉にも態度にも表せなくて、ただただ胸が苦しくなる。

 

「悠理?」

黙り込んだままの悠理をいぶかるように、清四郎は彼女の頬に手を伸ばした。

ゆっくりと頬を撫でられて悠理が微笑むと、清四郎もつられたように微笑み、そっと唇を重ねてきた。

 

行為の後のくちづけは互いを慈しむ心からで、そこには情欲のカケラも含まれてはいないのに、行為中のどんなに激しいキスよりも悠理の中に火をともす。

悠理の唇を一度だけ軽くはんで、すぐに離れていこうとする唇を、悠理は頭を浮かせて追った。

強く唇を押し付けて、背中から首へと回した腕に力をこめて引き寄せると、すぐに承知したかのように清四郎も応えてきた。

 

「まだ、足りませんか?」

唇を押し付け合い、舌を絡めながら清四郎が喘ぐように言う。

「もっと、欲しい?」

黒い瞳が、悠理の瞳の奥を探る。

 

欲しいのは快楽じゃないと思ったけれど、それでは何が欲しい?と問われても答えられないから、悠理は黙って頷いた。

悠理の頬を撫でていた手が首筋に下り、鎖骨をたどってから胸へと流れる。

下からすくい上げるように柔らかく揉まれて溜息をつくと、清四郎の唇が悠理の唇から離れ、ゆっくりと手の後を追っていった。

 

目を閉じると、かすかに空調機の稼動する音が聞こえ、そこに清四郎が悠理の肌を吸う音が混じる。

「あっ……」

胸の先端を吸われて、悠理は小さな声を上げた。

立ち上がった突起を、清四郎は口に含んで執拗にもてあそぶ。

初めて肌を合わせた日、「胸が小さいから」と見られることを嫌がった悠理に、「僕は小さい胸が好きですよ」と、清四郎が真顔で言ったことを思い出した。

 

 

何故抱き合ったのかを覚えていない。

ただごく自然に唇を合わせ、その先に進んだだけだ。

「友人」という生温かくて居心地のいい世界から一歩踏み出し、行く先の見えない場所へ。

 

 

清四郎の指と舌の感触に意識を集中する。

悠理の足を自分の肩にかけさせ、清四郎は先ほど何度も自分自身を突き立てた場所に顔を埋めた。

尖った舌の先で鋭敏な部分を突かれ、悠理は腰をよじって逃れようとしたが、力強い腕に阻まれた。

「ん…んっ、んんっ!」

喘ぎながら、悠理は清四郎の頭に手をやり、彼の黒い髪を指で梳き、絡めた。

何度絡めても、クセのない髪はするりと指から離れていき、悠理は身の奥から湧き上がる快感と心もとなさに、彼の名を何度も呼んだ。

「清四郎…清四郎っ」

 

返事はすぐに、激しい口づけになって返って来た。

同時に、清四郎の手が悠理の背中と腰に回り、ぐっと熱いものが悠理の中にもぐり込んできた。

「あ、ああっ!」

背を反らせ、腰を押し付けるようにして、悠理は清四郎をいっぱいに受け入れた。

圧倒的な量感を持って激しく突き入れられるものを離すまいと、全身で彼を抱きしめると、低く呻きながら、清四郎も悠理を強く抱きしめてきた。

 

「あ…はぁっ、あ、あっ……」

清四郎の身体を感じながら、彼に言いたくてたまらなかったことが再び悠理の中に湧き上がってくる。

たった一つの言葉。ただそれだけを言いたいのに、痺れるような快感に上手く声にならず、喘ぎしか出てこない。

それが悔しくて、悠理の瞳に涙が浮かんだ。

 

「悠理…」

清四郎が悠理の涙に気付き、唇でそれを拭い取った。

抱かれるたびにいつも悠理は泣くから、清四郎はその涙の意味を深く考えることもしないのだろう。

ただ習慣のように悠理の目の縁の涙を吸い取り、もっと強く抱きしめ、もっと奥へ、奥へと突き入れる。

合わせられた腰を激しく揺さぶられ、意識の全てが一点へと集中しだす。

その後、全てが宙へと解き放たれる瞬間に、悠理はやっと声に出すことが出来た。

 

「好き」

ただ、そのひと言だけを。

悠理の絶頂にぴたりとタイミングを合わせて、欲望を放出した清四郎に、その声は届いただろうか。

 

 

悠理の首筋に頭を伏せ、清四郎は荒い息を吐き続けている。

大きく胸を波打たせながら、悠理は清四郎の髪をなで、そこに口づけた。

清四郎の頭がピクリと動き、ゆっくりと傾いたと思うと、まだ快楽から覚めていない上気した顔でぼんやりと悠理を見た。

快楽の名残に少し潤んでいるように見える黒い瞳で、悠理を見ている。

 

「やっと、素直になりましたね」と、清四郎が囁く。

「僕も好きですよ、悠理のことが。友人のままでいる方が、楽だったのかもしれませんけど…」

大きな手のひらでゆっくりと悠理の頭を撫で、清四郎は微笑んだ。

「けど、どんな関係になったって、悠理はきっとずっと僕のそばにいるだろうって思うんです」

 

「意味、わかんないよ」

悠理は笑った。だから、何? 

この男の言葉と行動は、いつだって悠理の想定外だ。

それとも、抱かれることを拒みはしないのに、清四郎への気持ちを口に出せなかった悠理の葛藤を、この男は見抜いていたのだろうか。

 

「わかりませんか?」

清四郎は子どものように無邪気な顔で笑い、すぐに真顔に戻った。

「つまり、こういうことです」

そう言うと、清四郎は悠理を抱き寄せた。

「変らないものなんてないけれど、どう変ろうと、恐れることなんかないんですよ」

 

「僕はおまえを、離さないから」

 

近づいてくる清四郎の顔に、悠理はそっと目を閉じた。

見えなくても、言葉で理解できなくても、感じることが出来た。

温かいその存在と、いつか、たどり着く場所を。

 

 

 

end

(2007.12.8up)

 


 

最近嵌っている某グループの曲を聞いていて、なんか急に書きたくなって、ばーっと書いちゃったんです。

で、読み返してみて、「何が書きたかったんだ?これ」と考えたんですが、「単にエロが書きたかったんだ」という結論に落ち着きました。(笑)

 

「某グループって、もしかして…」と、ピンと来た方はいらっしゃるかな〜?(笑)

 

 

 

 


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Material by coco さま