「Good morning,sir. 」

「Good morning. Please put it here.」

「Certainly.」

「Thank you. Here you are」

「Oh,Thank you sir. Have a nice day!」

 

 

薄く開いたドアの向こうから聞こえる、異国の言葉で悠理は目を覚ました。

 

うっすらと目を開けると、真っ白なカーテン越しに差し込む日の光が眩しい。

目を細めながら、光を避けてうつぶせに寝返りドアの方を見ると、悠理の口元がほころんだ。

 

朝起きて、一番に見たい光景がそこにあったから。

 

 

 

 

Breakfast in bed.

 

 

 

 

 

「お寝坊さん、朝食ですよ」

大きな銀盆を抱えた清四郎がベッドに向かってくる。悠理は顔を枕に伏せたまま、目だけを上げて彼を迎えた。

ベッド脇の小さなテーブルに銀盆を置くと、清四郎はベッドに腰掛け、大きな手で悠理の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「ほら、起きろ」

「んーー」

 

いやいやと枕に一度強く顔を押し付けてから、悠理は弾みをつけて上体を起こした。

背中にかかっていたシーツがするりと背中をすべり、腰骨の下でひだを作る。

それを手で掴んで脇に押しやると、悠理はベッドの上にあぐらをかいて座った。

 

「おはよう、清四郎」

「おはよう、悠理」

眠たげに目をこすりながら言う恋人に、清四郎は苦笑しながら軽く口づけた。

 

「ん…」

唇が離れても、悠理は目を閉じたまま。

朝の光が、あっぴろげな白い肢体を隅々まで照らし出す。

それを見つめる清四郎の瞳に、昨夜と同じ色が宿り、軽く身をかがめると、ちゅっと音をたてて悠理の胸の突起をついばんだ。

「ひゃっ」

思わず胸を隠した悠理の両手を掴んで開かせると、清四郎はもういちど乳首に顔をよせ、今度はゆっくりと口に含んで味わった。

 

「あ、やん…朝ごはん食べるんじゃなかったのかよ?」

「先に、悠理をいただきたくなりました」

身をよじって逃れようとする悠理の背中に手を回し、ぐっと引き寄せた。

「でも…ハラ減った」

情けない声を出すと同時に、悠理のおなかがぐぅ、と音を立てた。

ムードのない恋人に、清四郎は一瞬眉を下げて呆れ顔になったが、すぐに悪戯な笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、食べさせてあげます」

その言葉に悠理は瞳を輝かせて、朝食が置いてあるテーブルへと身体の向きを変えようとした。

が、清四郎はにっこりと笑ってそれを制すると、腕を伸ばしてコーヒーカップを取った。

 

ひとくち、コーヒーを飲む清四郎の黒い瞳が、椀越しに楽しげに細められる。

カップを口元から離すと、清四郎は唇を悠理の唇に近づけた。

悠理の視線は、清四郎の口元に釘付けになったまま。

「キスされる」と悠理が思った瞬間、清四郎の喉がこくり、と動いた。

 

「あ!」

思わず声を上げた悠理から、清四郎はクスクスと笑いながら顔を遠ざける。

「何を期待してたんです?」

「ずっこいぞ!飲ませてくれるんじゃなかったのかよ?」

悠理は手を伸ばして清四郎からコーヒーカップを奪おうとしたが、清四郎はそれをひょい、とかわし、くすくす笑いながらもうひとくち飲むと、「ほら、自分で飲みなさい」と、悠理の口元にカップを押し付けた。

 

 

「……」

額にしわを寄せながら、悠理は両手でカップを掴んでコーヒーを飲んだ。

意地悪な恋人が、自分をからかって遊ぶのが大好きなことはよく知っている。

今日はいったい、どんな悪戯を思いついているのだろう? ちゃんと、朝ごはんは食べさせてもらえるのだろうか?

 

そんな悠理の不安をよそに、清四郎は上機嫌でトーストにバターを塗っていた。

銀盆の上には、4枚のトーストとスクランブルエッグに炒めたベーコンを載せた大皿。そして、白いボウルに盛られたフルーツサラダ。

全部のトーストにバターを塗り終えると、清四郎はサラダからひょいといちごを摘み上げ、振り向きざまに悠理の口に押し込んだ。

悠理が憮然とした表情でそれを租借していると、清四郎はトーストを載せた皿を片手に、悠理の後ろに回った。

 

 

「…?」

「さぁ、いただきましょうか」

清四郎は悠理の背中にぴたりと身体をつけると、脇に置いた皿からトーストを一枚取り上げた。

「どうぞ」

「…」

目の前に持ってこられたトーストに、悠理は噛り付いていいものかどうか迷った。

がぶりとやる瞬間に、また取り上げられるんじゃないだろうか?

悠理の逡巡に気付いたのか、清四郎が苦笑する。

「大丈夫、取り上げやしません」

悠理はまだ疑わしそうな顔をしながらも、トーストに噛り付いた。

 

英国式の薄いトーストは、中までこんがりと焼けていて香ばしい。

厚く塗られたバターも、口の中でさらりと溶けて、後にふんわりと塩気とミルクの香味を残す、絶妙な味だ。

あっという間に一枚を食べ終えると、悠理の額のしわは消え去り、口元には笑みが浮かぶ。

そんな悠理の顔を覗き込むと、清四郎はトーストをもう一枚、悠理の口元に運んだ。

 

 

ぱり。

悠理がひとくち齧るとと同時に、清四郎の左手が、悠理の乳房をすくうように掴んだ。

親指と人差し指で乳首をつまむと、悠理のトーストを噛むリズムに合わせて、ぐっぐっと捏ねる。

 

「あ…」

口中のトーストを飲み込むと、悠理は小さく喘いで清四郎の顔を見た。

「食べて」

清四郎は耳元で囁くと、そこに舌を這わせた。

悠理は首をすくめながら、言いつけられたとおりにトーストをもうひとくち齧る。

先ほどと同じように、顎の動きに合わせて胸が揉まれる。

 

もうひとくち、胸から手が離れると、臍のまわりを指がくすぐる。

またひとくち。悠理の太ももを、大きな手が撫ぜた。清四郎の舌が、悠理の首筋を這う。

更にひとくち。指がそろそろと秘裂を辿る。

 

最後に、残った一片を悠理の口に押し込むと、清四郎は長い指を悠理の中に差し入れた。

「んっ、ぐ…」

悠理は背を反らせ、身体を震わせてトーストを飲み込んだ。

 

「もっと、食べたい?」

指を出し入れしながら、清四郎が尋ねた。

悠理はうつむいて、小さく首を横に振った。こんなことをされながらでは、食べても味などしない。

 

「ここは、もっと食べたいって言っていますよ」

笑いを含んだ声で囁くと、清四郎は空いた手を伸ばしていちごをひとつ掴んだ。

その手が自分の股間に向かうのを見て、悠理は必死で首を振った。

 

「や、やだ! いらない……ひっ!」

ひやり、とした感触に、悠理は小さな悲鳴を上げた。

冷たいいちごが、そこでぐるりとまわされてから、離れた。

 

「あ…」

てっきり押し入れられると思っていた悠理は、安堵の溜息をついた。

「まるでシロップがかかっているみたいですね」

清四郎は、自分の目の前にいちごを掲げてくすくす笑うと、一口にそれを食べ、ぺろりと指を舐めた。

「甘くて、おいしい」

「…ヘンタイ」

目を細めて言う清四郎を、悠理は横目で睨んだ。

 

 

「入れられると思ってました? でも、悠理のココが食べるのは、こっちでしょう?」

清四郎は楽しそうに笑うと、熱い塊を悠理の腰に押し当てた。

「それとも、もうおなかいっぱいですか?」

「……」

悠理は顔を赤くしてうつむくと、もぞもぞと腰を動かした。

悠理をからかっている間も、清四郎の指は休みなく悠理の秘裂を刺激し続けていた。

腰から下は、さっきのトーストに塗られたバターのように、溶けて流れ出しそうに熱くなっている。

 

「お願い、食べさせて…」

消え入りそうな声で答えた悠理に、清四郎は満足げに頷くと、悠理の腰を持ち上げてそっと自分の上におろしていった。

 

 

「ああんっ、んっ!」

自分の中が清四郎でいっぱいに満ちていく快感。いちごよりも甘い感覚が、身体の中を突き抜ける。

「どうだ? おいしい?」

うわずった声で、清四郎が聞く。悠理は、ガクガクと必死で頷いた。

清四郎の手が悠理の顎を掴み、激しいキスと、舌と唾液が与えられる。

「んんっ、うっ…」

悠理は清四郎の頭に手を回し、引き寄せた。興奮で渇いた喉を潤そうとするかのように、彼の舌を強く吸った。

全身で清四郎を味わいたい。満腹感を覚えるほどに。

もっと、もっといっぱい、奥深くまで。

悠理は、清四郎に自分の身体を擦り付け、自ら大きく腰を振った。

 

 

 

どんなにおいしい料理だって、毎日じゃ飽きる。

けれど、清四郎は、毎日でも飽きない。いちど食べたら、もっともっと欲しくなる。

病み付きになる、心まで満たされる、悠理にとっての最高の料理。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

その後。

 

 

「清四郎の、けちっ! あたいにもトーストもっとちょうだいよぉっ!」

「悠理はさっき二枚食べたでしょう? ひとり二枚ずつですよ」

「あんだけじゃ足りないよ! それに、ヤッたらお腹すいた!」

「それは僕も同じですよ」

 

残った朝食を取り合う、恋人達の仲睦まじい姿がありました。

 

 

 

 

end

(2007.6.29up)

 

 

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