『 2 BECOME 1 』
        〜始まりの夜〜





「う……ん」



眠りの中、悩ましげな吐息が悠理の唇から漏れた。
身体の中心から広がる、重く甘く痺れるような感覚がある。
朦朧とする意識で痺れの出所を探った。
何処……?
ひとつは、胸の辺り。もうひとつは……

ちゅ…かすかな音が聞こえた。
ぴちゃ…もっと、ひそやかな音も。
ゆっくりと目を開いて音のした方へと視線を向ける。
目に映ったのは、黒々とした男の髪。
それはわずかに、揺れて動いていた。
悠理の意識がぼんやりと痺れの原因を認識し始めた。

ひとつは、男の唇―――

悠理の乳首を唇で咥えてちゅ、と吸い、舌で左右に揺らしている。
もうひとつは、男の指―――
悠理の足の間に差し入れられ、ゆっくりと擦り上げている。何度も、何度も…


「はぁ…ん……何…してる、の…せいしろ?」
まだはっきりとは目覚めぬ意識。
そこにいる、でもこんな事をする筈はない男に問いかけた。
友人であるはずの男に。

男の髪が揺れ、顔を上げて悠理を見据えた。
いつもは後ろに撫で付けられている前髪が額に落ち、その下から黒い瞳が覗いていた。
―――シャンプーの香りがする。ああ、風呂に入ったんだな。
そんな事を思いながら、清四郎の瞳を悠理は見つめ返した。
ぞくり、と身体におののきが走った。
こんな目を、見た事がない。
男の、情欲に囚われた瞳など。

ちろ…と、男の唇から紅い舌が覗いた。
上目遣いで悠理を見据えながら、見せ付けるように悠理の胸を舐め上げてくる。
「やぁ…」
悠理が漏らした甘い声に、清四郎は満足したように目で笑うと、また顔を埋めた。


いつの間にこんなことになったんだろう?
今日は、清四郎の部屋で試験前の泊まり込みだった筈。
いつの間に、眠ってしまったんだろう?
いつの間に、ベッドに運ばれたんだろう?
―――いつから、こんなことされてるんだろう?

悠理の着ていたキャミソールは胸の上にまで捲り上げられ、穿いていたはずのショートパンツの感触はない。

視線を彷徨わせると、ベッドの端に脱がされ放り投げられているのが目に入った。
どうして…脱がされてるんだろう?
清四郎はパジャマ姿だ。
ずるいぞ。自分だけ風呂に入って…

取り留めのない考えが頭をよぎる。
およそ、この場にふさわしくない考えばかりだ。
おそらくは、悠理の意識が今の状況について深く考える事を拒否していたのかもしれない。
親友であるはずの男に、胸を舐められ、秘めた部分を弄られている事になど。


弛緩した意識。弛緩した、身体。
小さく喘ぎ続ける悠理は、清四郎がパジャマのズボンを下ろす気配を感じても、抵抗しなかった。
清四郎の身体が、悠理に覆いかぶさってきた。
甘く痺れたところに、熱くて固いものが押し当てられた。
一、二回、入り口に擦り付けられた後、ゆっくりと押し入ってくる。
黒い瞳が、悠理を見下ろしている。
たっぷりと濡らされた場所は、拒むこともなく男を受け入れた。
最奥まで埋め込み、清四郎は小さな吐息を漏らした。

 

「ああ…」
「ああ…すごく、いい……」

 

そして、緩やかに抽送が開始された。





*****






清四郎が果てたのは、悠理を幾度も絶頂に導いた後だった。


悠理は身体に絡みついた男の腕を外して身を起こした。
身体の最奥からとろり、と熱いものが流れ出るのを感じた。
―――まだ弛緩している意識。
何が起こり、そして終わったのか、ゆるゆると考えを巡らせた。


「ねぇ…何で?」



ベッドに横たわり、はだけたパジャマの上衣と呼吸を整えている男に尋ねた。
清四郎はちら、と悠理を横目で見た。
黒い瞳には、情事の後の気だるさしか映しだされていない。
視線を天井に向け、清四郎は考え込むように目を伏せた。


「何故…でしょうね?急に、『したくなった』としか……」


ぞわ…と、悠理の全身が総毛立った。
暗い怒りが込み上げてきた。
それって、どういう感情なんだ?


「…って、なんだよ!したくなったら誰でもいいのかよっ!」


…あたいたちは、ダチじゃなかったのかよ。
そんな簡単な理由だけで、抱いてもいい女だとしか思ってなかったのかよ。
言ってやりたいことは、いくらもあった。
けれど、どの言葉も言えなかった。
起き上がり、悠理の瞳を覗き込んだ、清四郎の次の言葉に……


「……気持ち良く、なかったのですか?」


悠理の思考が、停止した。



「……良かったけど…」


自分が何を言っているのか、悠理は認識していなかった。
清四郎の黒い瞳が、悠理の瞳を捉えていたから。
近づいてくる、清四郎の唇に意識も囚われていたから。


お互いに、じっと目を開けて挑むように見詰め合ったまま、唇を合わせた。
見詰め合ったまま、唇を貪り、舌を絡めた。
清四郎の手が悠理の頭と腰に回り、ゆっくりと悠理の身体をベッドに押し倒していった。
ひと時も、視線を逸らさないままに。



暗い部屋に、密やかで淫らな音が、また響き始めた。

それが二人の、始まりの夜。



                                         
                    

end


(2005.8.8)



最低だな、この清四郎。(笑)
「夏風邪は馬鹿がひく」を実践し、高熱を出した時に妄想したエロネタ。後半部分を加筆し、青蘭さまのサイトに載せていただいておりました。

まさかこの前半部が、後に壮大な物語(*Painのこと)に繋がるとは、この時はまだ思いもせず…





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