回るミラーボール。
音楽の洪水。
思い思いに踊る、人の群れ。
こういう光景は、決して嫌いじゃない。


「せ、清四郎…」

慣れぬ雰囲気に固まる野梨子に、僕はこう答えた。
「おもしろそう」


初めて足を踏み入れたディスコ。
気分が、知らぬうちに高揚する。
その時の僕の胸には、何かが変わるかもしれないという期待。
それは幼馴染の野梨子の頑なな心か、それとも…
初めて会った時から一向に進まぬ、君との関係か―――







「清四郎、これ黄桜さんに貰ったのですけど、一緒に行ってもらえません?」
生徒指導室での一件の後、いつもの帰り道。
家に着こうかという時になって、それまでずっと何か言いたそうにしていた野梨子が、一枚のチケットを取り出した。
それは、ディスコの割引券。
野梨子の手からそれを抜き取った僕は、目を丸くした。



「今日は皆集まるからって、黄桜さんが」
顔を赤くし、俯いて言いつなげる。
このお堅い幼馴染が、誘われたとはいえディスコに行きたがるとは。
これは……いい傾向ですね。
「いいですよ、今日は特に予定もないですし」
「よかった。じゃあ、6時に迎えに来てくださいな。…剣菱さんも、来るんですって!」
「……」
嬉しそうな顔を見せながら、自宅に入っていく野梨子の後姿を見送り、僕はしばらく道に立ち尽くしていた。



剣菱悠理。

初対面の時から、僕の自尊心を見事に打ち砕いてくれた君。
誰かと友達になりたい―――そんな風に、思うことなどあまりない僕なのだけど。
彼女のことは何故か、とても気になって。
幼稚舎、小学部、僕は何とか彼女とと話すきっかけを掴もうとしたのだけれど……玉砕。
中等部に進んで、3年になって同じクラスになれて。
一緒にクラス委員をすることにまでなったのに。



僕と君とはまだ、友達にさえなれていない。


*****



「はーい、生徒会長。ステキよお〜」
ばっちりメイクを決めた黄桜さんが手を振っている。
騒がしく音楽が流れ続けるディスコの一角で。
僕達は黄桜さんのペンパルである美童に会った。
そして、少し遅れてきた君に、「ロック仲間でケンカ友だち」を紹介された。
あちこちのケンカ場で鉢合わせし、すっかり意気投合したという。
父親が警視総監をやっているという彼――魅録は、話すととてもいい奴だった。



「友達」
その表現が、僕の胸に堪えた。
学園で、君が誰かをそう呼ぶのは聞いた事がなかったから。
僕が、君にとってそう呼ばれる存在になりたかったから。



僕の思考をかき消すかのように、メロディアスなギターのフレーズが流れ出した。
「きゃ、デュラン・デュランだわ。ねぇ、踊りましょうよ!」
「え?わ、私……」
「だいじょーぶ、リードしてやるって!」
「それは男の役目だよ〜」
黄桜さんに手を引かれ、野梨子がフロアーへと歩き出す。
それを追って、剣菱さんと美童も。


「魅録も来いよ!」

「俺は後でいーよ。もうちょっと飲んでから!」
親しげな、二人のやり取り。
ちくり。僕の心が、少し痛んだ。
魅録はそんな僕の心を知らず、人懐っこい笑顔を浮かべてグラスを掲げて見せる。
「俺さ、ずっとあんたと話してみたかったんだよな」
「僕を…知ってたんですか?」
「悠理がさ、よくあんたのこと話してたんだ。生徒会長のキクマサムネー」
「剣菱さんが、僕の事を?」
「ああ、いつもな」

 

その言葉を、聞いた途端に。
頭で考えるでもなく、体が動いた。

立ち上がり、君の後を追う。
「剣菱さん」
彼女に呼びかけ、そっと、髪に手を伸ばす。
君に触れたがる、僕の指先。
すっと、被っている帽子を取り上げた。



イラスト By ネコ☆まんまさま


 

「踊るのに邪魔でしょう?」
ぽかんと、僕を見上げる君。
「ほら、置いて行かれてしまいますよ。追いかけなくて、いいんですか?」
フロアーに出て行く、黄桜さんと野梨子の後姿を指差す。
少し、熱くなった頬を見られたくなくて。君の、視線を逸らしたくて。
「あ…」
慌てて二人の後を追おうとしかけて、君は僕を振り返った。


「それ、持っててくれよな。…清四郎!」


……初めて、名前で呼ばれた。
僕に向かって大きく振られる、君の手のひら。
勝手に、笑みがこぼれる。
「いいですよ。……悠理」
小さく呟き、手に持った帽子を頭にのせた。
踵を返し、魅録のところに戻っていきながら、僕の口元はずっと緩んだままだった。

 

あの日と、それに続く数日。
何かが、変わり始めた日。


それは、僕の中だけでだったろうか。それとも―――



 

end

(2005.9.13)




初めて書いた中坊ネタ。原作のシーン絡めて書いたのも初めてです。

悠理への気持ちをうっすらと自覚し始めた清四郎…って感じで書きたかったんですが、どうも奴の一人称にすると暗くなりがちです。

実はこのお話は、ネコ☆まんまさまのイラストからの妄想で、帽子を取るくだりも、ネコさまがイラストに添えられていた台詞をいただいちゃいました。勝手にごめんなさ〜い。

そして、許可をいただけたので早速イラストを貼りつけ!ね〜、妄想掻き立てられるでしょお♪ネコさま、ありがとう。

タイトルは(またも)EXILEの曲から。好きなのよね。





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