『 キスして抱きしめて 』
「せ…しろっ……」
自分の声で目が覚めた。 ベッドの上に起き上がると、瞳からぼろぼろぼろぼろこぼれ落ちる涙。
中坊の頃の夢を見た。 夢の中には、意地っ張りのあたい。 あいつの事が気になって気になって仕方がないのに、そんな素振りすら見せられず。 自分の胸の内で疼くような感情の名前すらわからず、ただ突っ掛かっていく事でしかあいつの気を惹けなかった自分。 野梨子と肩を並べて帰っていく後姿を、いつも指を咥えて見てた。 学校の屋上のフェンス越しに、小さくなっていく後姿をただ見送ってた。
―――清四郎が隣にいない夜。
枕を抱きしめて、丸くなって。 目を閉じて、あいつの顔を思い出してみる。 笑った顔のあいつ。怒ってるあいつ。 自信満々で、ニヤって笑ったとこ。 ちょっと切なそうに、無言であたいを見てるあいつ。 そして…なんともいえない優しい目であたいを見つめるあいつ。
あ、やだ…ますます切なくなってきちゃった。 胸が痛い。切ない、苦しい、寂しい。 今すぐ、逢いたいよ……
明日になれば会えるのに。 あの温かい腕に抱かれる事が出来るのに。 たった一晩がどうして我慢できないんだろ。
眠れなくなって、起き出した。 テレビをつけて、チャンネルをアレコレ変えて。 なんにも面白いのやってないから、二人で見たDVDをセットして。 ぼーっと見てたら、また泣きたくなってきて。 大好きなシュワちゃんの映画だっていうのに、どうでもよくなってきて。 また、あいつのことばっかり考えて。
あたいに触れる、あいつの指先とか、笑い声とか。 イジワルなものの言い方とか、容赦なく落とされる拳骨とか。 それでも、いつもいつもあたいを守ってくれる、大きな手のひらのこととか。
今すぐ、逢いたい。 キスして抱きしめて、「愛してる」って言って欲しい。 胸が苦しくなるほどに、ぎゅって強く抱きしめて欲しい。 あいつの背中に手を回して広い胸に顔を埋めて、この恋が永遠だって感じたい。
立ち上がって、カーテンを開けて窓の外を見た。 静かに、星が光ってた。 あいつも今、同じこの星の下にいるんだ、なんて… 馬鹿なこと考えて、一人笑っちゃったりして。
思い出す。思いが通じた日の事を。 自分の中でもやもやと渦巻く感情が何なのかまるきりわからなくって。 あいつの顔見ると苦しくなって… いつしか、あいつを避けるようになってしまった。 なのに、偶然あいつと鉢合わせた人気のない学校の廊下。 俯いて、あいつの横を走りぬけようとしたとき、掴まれた、腕。 「悠理…僕が、嫌いですか?」 あいつの、押し殺したひどく苦しげな声に、驚いて顔を上げた。 眉根を寄せた、真剣な顔。 そして、あいつの黒い瞳を見た時、そこに浮かべられた感情に、すとん、と答えが胸の中に落ちてきた。
「キライじゃ、ないよ……」 涙が、零れた。 「すき…大好き…せいしろ……」 ふわり、とあいつの匂いがして、抱きしめられた。 「僕も、大好きです。悠理……」
ベッドにパタン、と寝転がり、丸くなって爪を噛む。 瞼を閉じて、眠りが訪れてくれるのを待つことにした、その時――― 不意に、微かなメロディーが携帯から流れ出した。 びっくりして目を開けて、震えながら手に取り、通話ボタンを押す。
「もしもし……」 「悠理?起きてましたか?」 「清四郎…」
目を閉じて、あいつの名前を呼ぶ。 湧き上がる、切ないほどの幸福感。
「悠理?どうした?」 「…なんでもないよ。そっちこそ、こんな時間にどうしたの?」 縋りつきたいような思いを押し殺して、なんでもないって感じで聞く。
「……悠理が、泣いているような気がしまして」
その言葉に、また一筋涙が流れた。
「もしもし?悠理?」 「……い…たいよ」 「え?」 「…逢いたいよ。清四郎」
「……今すぐ、行きます」
微かな音を立てて、電話が切れた。 思わず、携帯を胸に抱きしめた。 早く来て、清四郎。
キスして抱きしめて、愛してるって言って。 胸が苦しくなるほどに、ぎゅって強く抱きしめて。 そうしたらあたいは、あいつの背中に手を回して広い胸に顔を埋める。
そして―――この恋は永遠って、この胸に焼き付ける。
end (2005.9.10)
オープン記念の第1作目〜♪ MISIAのタイトル曲から妄想しました。いい曲を聴くと、それでSS書きたくなっちゃうんですよね〜。が、あまりにも歌詞のままの内容だったのでお蔵入りさせておりました。今回サイトオープンに伴い、加筆してアップしましたが、たぶん著作権的にはやばいので、内緒でお願い。(←悪) 多分まだ、付き合い始めてそう日が経っていない頃でしょう。四六時中一緒にいたいなんて♪
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