「不思議の国のフク」

By にゃんこビールさま

 

 

 

すごい風邪を引いた。
期末試験がやっと終わった日、東京に初雪。

だったら遊ばないわけにいかないじゃないか。

あたいは時間を忘れて庭で雪遊びをした。

その結果、大風邪。
試験が終わったらみんなで遊びに行くことになってたのに。

可憐には「あんた、バカじゃないの?」って怒られるし、

魅録には「おまえ…子供じゃないんだから」って呆れられるし、

野梨子には「気が緩んだ証拠ですわ」なんて言うし、

美童なんて「毎日デート目白押しなんだから移さないでよ」なんて言った。

大好きな清四郎まで「家で大人しく寝てなきゃダメですよ」だって。

やっと嫌な試験も終わって清四郎と色んなところに
遊びに行こうと思ってたのに。
熱が出てきたのかな… 体のあっちこっちが痛い。

うっすらと目を開けたらソファーに誰か座ってる。

誰だろう… 熱で目が潤んじゃってよく見えない。

でも黒い髪とあの足の組み方は… 清四郎。

来てくれたんだ。
清四郎… ああ、のども痛くって声が出ない。

あれ?となりにいるのは誰?
白い、ふわふわの洋服来てる、女の子。

野梨子でも可憐でもない。
誰?清四郎、その人、誰?
ダメだ… 体が痛くって、のども張り付いて、声が出ない。


「いつまで経っても悠理は子供で困りますよ。」

清四郎がため息まじりに言う。

「顔は困ってないみたいだけど。」

白い洋服を着た女の子がクスッと笑った。

すらりと細い手足。髪の毛は悠理と同じく短くって薄茶。

目は黒目が大きく、そして、ちょっと魅力的なつり目。

そう言われて清四郎は女の子の後ろ髪を撫でた。

「ま、そんなところが可愛いんですけどね。」

「悠理だって清四郎さんと出掛けるのすごい楽しみにしてたのよ。」

女の子は清四郎も悠理のことも知っているらしい。

「わかってますよ。僕だって楽しみにしてたんですから。」

口では悠理のことを話しているのに女の子を肩に引き寄せた。

女の子もうっとりとした表情を浮かべた。

「でも今回はずいぶん熱がひどいみたい。」

そういうと悠理の方に視線を投げた。頭を清四郎の肩に寄せたまま。

「そうですね… さっき注射打ったからじきに下がるでしょう。」

清四郎も悠理に視線を投げた。

「ねぇ、清四郎さんは悠理のどこが好きなの?」

女の子は清四郎の肩から顔を上げた。

じっと清四郎の目を見て。
「どこって… 素直でまっすぐなところ… 乱暴だけど実は優しいし。」

清四郎はすくっと笑って女の子の顎を上げた。

「それにお前に似てくるくる表情を変えるとこが可愛い…」

女の子もふふふっと微笑んだ。

「悠理もいつも清四郎さんのこと惚気るのよ。」

「おや、悠理はお前になにを言ってるんです?」

また清四郎の肩に頭を乗せて女の子は笑った。

「うふふふ… それはないしょ。」

そういうと清四郎はぎゅっと女の子を抱きしめた。

「ちょっと、あたしは悠理の代わりじゃないんだから。」

そういうとぐいっと細い腕で清四郎の胸を押した。

「おや、まだ僕に心を開いてくれてないんですか?」

女の子はクスッと意地悪そうな笑顔を見せた。

「当たり前よ、そんなにあたしは安くないわ。」

「こんなに会っているのに…」

そういうと清四郎はまた女の子の後ろ髪を撫でた。

口とは裏腹に女の子は目をつぶって恍惚の表情を浮かべた。

ぱっと女の子は顔を上げて清四郎に大きな目を見開いた。

「悠理を悲しませたら絶対にあたしが許さないわ。」

「わかってます。大切にしますよ。」

でも後ろ髪を撫でる清四郎の手は止まらない。

「早く治ればいいですね…」
「本当…」

清四郎… 誰としゃべってるの?その子は誰?
あたいも知ってる子?
どっかで見たような気がする。ずーっと昔から知ってる気がする。

誰だっけ?
頭がぼーっとしてよく思い出せない。

「せいしろう…」
絞り出したあたいの声に清四郎とその女の子がはっと気が付く。

「悠理、目が覚めましたか?」

清四郎と女の子が近寄ってくる。

瞬きをしたら涙がこぼれた。涙が熱い。

清四郎は手をあたいのおでこに乗せた。冷たくって気持ちがいい。

「…まだ高いな。」
女の子もベッドのそばにきて、もの凄く心配そうにあたいを見てる。

「ちょっとスポーツドリンクでも飲んだ方がいい。もらってきます。」

そういうと清四郎は部屋を出て行った。

残されたのはあたいと女の子。

「悠理… 大丈夫?」
本当に心配そうな目であたいを見てる。

やっぱり知ってる、この目。
「ごめんね、あたし…何にも出来なくって。」

女の子はあたいの枕元に顔を乗せた。

あたいは清四郎がしたみたいに女の子の頭を撫でた。


「クゥ〜ン」
次に目を開けるとフクがあたいの枕元であたいを覗き込んでる。
「フク……」
女の子と同じ黒目が大きくてつり目。

「清四郎と話してたの、フクだったの?」

フクは黙って目をつぶった。まるで(そうよ)って言ってるみたい。

「そっか…」
何だか眠たくなってきた。
清四郎が戻ってきて「寝ちゃったんですか?」ってフクに話してる。

フクはあたいのベッドからどこうとしない。

「そんなことろにへばりついてたら風邪が移ります!」

清四郎に怒られてフクはベッドから引きはがされた。

「悠理はあたしが病気になったとき寝ずに看病してくれたの。
だから今度はあたしがずーっとそばにいるの!」
清四郎に抱っこされたけどまだ抵抗している。

「そんなこと言って…反対にお前が具合が悪くなったら悠理が悲しみますよ。」

「だって…」
「僕だってネコの病気は範囲外ですからね。」
そう言われてフクは大人しく清四郎の腕の中に収まった。

清四郎はニコッと笑ってフクを優しく撫でた。

「悠理の風邪が治ったら、タマも連れてどこかドライブでも行きますか?」

本当?清四郎。やった。
清四郎とタマとフクと4人で出掛けるんだ。

どっかおいしいものがあるとこがいいな… ねぇフク。

ああ…眠い…清四郎とフクの声が遠くなっていく。

清四郎、フクとケンカしないでどこ行くか決めておいてよ…

あたいも早く風邪治すから…




おしまい♪





またいただいちゃいました〜♪

拙作、「キス魔」で悠理に清四郎から引き剥がされたフクちゃんの返礼。

でも、ちゃんと悠理を心配しているフクがかわいいですね〜。

タイトルはこのお話をいただいた時、フクの姿を「不思議の国のアリス」で想像してしまったので、こう付けさせていただいたのですが、原作の豊作さんの言葉によると、フクって「オタフク顔」なんですよね〜。オタフク顔のアリス、想像するとかわいいわ。(笑)

にゃんこさま、猫部屋も出来たことだし、またよろしくね〜。






「猫話のお部屋」
Material By ぽわぽわ猫のつぼ さま