「Happy Heart」

By にゃんこビールさま

 

 

 

広い部屋なのに床は足の踏み場もないくらい絹の海。
悠理が脱ぎ捨てていった洋服が散乱してるの。

別に悠理がご機嫌斜めで大暴れした訳じゃないのよ。

もちろんあたしやタマがいたずらした訳でもないわ。

今日は清四郎さんと水族館で初デートなんだって。

付き合ってから初めて、ふたりっきりでお出かけなのよ。

朝から緊張しちゃって朝ご飯も食べられなかったのよ、この悠理が。

あたしたちのご飯も忘れられちゃって、タマなんて百合子さんのところに直談判しに行ってるの。
まったく、女心がわかってないわよねぇ。

それで何を着ていこうか悩んで、この有り様。

初めのうちは「水族館」に気を取られていたらしいの。

黒と白?ずいぶんシックな色合いと思ったら、シャチの着ぐるみよ。

次は真っ赤。襟も袖も裾もフリンジになってるニット。

伊勢エビ?タカアシガニ?それともタコなの?

オレンジに白の太い横シマ。
ああ、ニモを意識したのね。クマノミ、クマノミ。

次は黒に銀色の刺しゅうが何本も入った派手なシャツとパンツ。

光もの?アジ?サヨリ?食べられちゃうわよ。

極めつけは目の覚めるような黄色と青のシマシマ・シャツ。

頭には魚の顔をした帽子までかぶったの。

もう、あたしは「さかなくん」かと思ったわよ!

「こんなんじゃダメだ!」って、そりゃそうよ、悠理。

どう考えたって清四郎さんは「さかなくん」は気に入らないと思うわ。


そしたら急にクローゼットの奥に引っ込んじゃったの。
しばらく戻ってこないと思ったら洋服を山盛り持ってきたわ。

今まであんまり見たことない洋服。

ビーズやラインストーンが入ったアンサンブル、すごいきれい。

ベージュのニット・ワンピースにベルベットのリボン、かわいい。

ドレープが入ったブラウススーツ、とってもシック。

後ろが編み上げになってるワンピース、ステキ。

……沈黙。
と思った瞬間、「こんなのあたいじゃない!」ってぶち投げた。

とっても似合ってたのに。
清四郎さんもたまにはそんな恰好の悠理も見たいと思うけど。

でも今日は水族館だもんね。
それはステキなレストランでお食事したりする時の方がいいかもね。

えーっ!だからって上下ジャージはないんじゃないの?

トレーナーもだめよ、近所に買い物行くわけじゃないんだから。

どうして急に普段着になっちゃうわけ?

「わーん、何着ていけばいいんだよーっ!」

悠理は脱ぎ捨てた洋服の上にペタンと座り込んだ。

そうよね、悩むわよね。

初めてのデートだもんね、わかるわ〜。
悠理のファッションって奇抜でかわいいんだけど、清四郎さんっていつもトラッド、トラディショナル、シックな装いだもんね。
合わせようと思うと大変よね。

でもね、清四郎さんはそんなこと気にしないと思うの。

昨日今日の付き合いじゃないでしょ?何年いっしょにいるのよ。

悠理の格好がいやだとか、恥ずかしいとか、そんなこと言うんだったらあたしが許さないわ。
だいいち、清四郎さんはそんな小さい人間じゃないでしょ?

いつもの、ありのままの悠理でいいと思うわ。

「ありのまま?」
そう、悠理らしいのが一番!
「あたいらしい…」
そうつぶやくとまたクローゼットの中に入って行ったわ。

戻ってきた悠理は黒のカットソーにラベンダー色のツイードのハーフパンツ。
それに前身頃がラビットファーのベスト、足下はブーツ。
「どう?」
にっこり笑って見せた悠理、すごいかわいい!

ちょっと清四郎さんを意識しつつ、ラビットが悠理らしくてかわいい。

きっと清四郎さんも喜ぶと思うわ。

「あ〜 着替えるのにすごい時間かかっちゃった。何だか腹減ってきたし…」

大丈夫。きっと清四郎さんはおいしいレストランに連れてってくれるわよ。

それにそろそろ約束の時間じゃない?

『お嬢様、菊正宗さまがいらっしゃいました。』

「あーい、いま行くーっ」
さすが、清四郎さんたら時間に正確だわ。

「フク、サンキューな。じゃ、行ってきます!」

悠理はほっぺたをピンクに染めてお出かけ。
くんくん…なんだかいい香り。
これって可憐さんから「悠理も少しは香水とか付けなさいよ」ってもらったやつじゃない?
優しい香りだけど、ちょっとお花の香りが女の子らしいわね。

清四郎さんもびっくりするんじゃない?

1日楽しいデートになるといいわね。

あ!おみやげに鰹一本頼もうと思ってたのに忘れちゃった!

しょうがない、こんなに悠理に付き合ったんだから清四郎さんにおねだりしようっと。

 



おしまい♪



かわいい♪にゃんこビールさまからいただきました〜。

「フクちゃん編です。

やっぱり、悠理とは女の子同士。きっとあれやこれや相談してるんでしょうね。

最後に「海鮮ワンピ」を選ばなくってよかった!」

タイトルは、この日悠理が清四郎の為につけた香水の名前だそう。

もう、こんなかわいいお話、うちでは初めてではないでしょうか?和みますよね〜。

ちなみにこれは、フロさまのサイト「ふろいらいんの煩悩空間」でアップされた、「ボクは何でも知っている」の続編です。フロ氏と私の密談により、こちらっでアップさせていただきました。

 

にゃんこさん、どうもありがとう〜。今度はサユリ、アケミでヨロシクね。(笑)






「猫話のお部屋」

Material By てるちんの素材屋さん さま