「ねえ、紅白ってさ、男と女ってこと?」 無邪気な顔で、悠理がつぶやいた。
大晦日。
剣菱家では、万作夫妻はハワイで年越し。 豊作はホワイトハウスの新年会のためアメリカへ。 悠理と清四郎は二人だけの年の瀬を迎えていた。
大掃除とも買出しとも飾りつけとも無縁の二人は、一日師走の街で遊んだ後、メイドたちが正月準備を整えた剣菱邸に戻り、シェフ心づくしの年越しディナーを楽しんだ。 夜の冷え込みが厳しいので、初詣は元旦に持ち越すことにして、二人は早々に悠理の部屋に引き上げた。 清四郎としては、今夜は「年越しそば合戦だがやーっ!」などという乱入者(悠理の両親)の恐れもないはずで、あとは速攻で、二人の愛の年越しに突入したかったのだが・・・
「やっぱ、大晦日は紅白だよな」 悠理は、部屋に入るなり、どっかとソファに座り込み、嬉々としてテレビをつけた。 「あーっ! 東方神起もう出ちゃったのかー」 「小林幸子はまだかなー。今年はどんなんだろ」 清四郎にとってはどうでもいいことで、悠理は一人盛り上がっている。 はっきり言って、羞恥心もポニョもミスチルも、清四郎には興味がない。興味があるのは、アルコールで上気し潤んだ目をした恋人だけである。
「いまさら、紅白なんて見たって仕方ないでしょう。それより、ね、悠理・・・」 清四郎は、悠理の隣に腰を下ろし、その肩に手を廻して引き寄せた。そして、もう片手で悠理の顔をこちらに向けようとした。 が。 「だーめっ。正しい日本人は、紅白見て、行く年来る年見て年越ししなきゃ」 およそイマドキの若者らしからぬ台詞を吐いて、悠理は清四郎の手を払いのけた。 「ったく、清四郎ってば、エッチのことしか考えてないのかよ」 ぐぐっ。 聞き捨てならない(が、核心をついた)言葉に、清四郎は押し黙る。 よりによって、悠理にそんなことを言われるとは。 ─────お前だって、食い物とエッチしかないでしょうがっ!
清四郎の心中も知らず、悠理はテレビに見入っている。 清四郎は、やけくそ気味に、部屋に用意されたアルコールを痛飲した。
そんなとき、悠理がポツリと呟いたのである。 「紅白ってさあ、めでたいときに使われるけど、男と女のことなのかな」
そう聞かれれば、清四郎の薀蓄魂が覚醒する。 「ふっ。相変わらず悠理は物知らずですな」
─────紅白というのは、日本においては、対抗する二組を表してましてね。 源平合戦で、源氏が白旗を掲げ、平氏が赤旗を掲げたのが由来のひとつと考えられています。また、赤は赤ちゃんで「生」を、白は死装束の「死」を表して人の一生を意味するという説もあるんですよ。それから白は花嫁装束だとか、赤は祝い事の赤飯という説もありますがね・・・
「ふーん、そうなんだ」 悠理が感心したようにうなずいた。 「でも、なんだったか、白地に赤く日の丸染めてとかいうのもあったよな・・・」
その瞬間、清四郎の頭の中にむくむくとイケナイ妄想が湧き上がった。 悠理の白い肌、そこに次々に染め上げられていく赤いしるし、それは・・・
「ゆうりっ!」 いきなり叫んだ清四郎に、悠理は驚いて身を竦ませる。 「な、なに?どしたんだ、せいし・・・」 皆まで言わせず、清四郎は、悠理をさっと抱き上げると、ベッドに運搬した。 「おい、待て、清四郎。なんだ、どうした?紅白まだ終わってない・・・」 「やりましょう!僕らも紅白を!男と女の戦いです!」 力強く宣言する清四郎に、悠理は目を白黒させる。 「なんだ、なんなんだ」 悠理の抵抗も戸惑いも委細かまわず、清四郎は、ベッドに抱き下ろした恋人の服をさっさと剥ぎ取っていく。 「待てー、こら待てっ!あにすんだー!」
暴れる悠理の体を軽々と押さえ込み、清四郎は、露にされた白い肌に吸い付いた。 「ああ、なんて白い肌なんだ。でも、負けませんよ。ほら、赤が反撃です」 ちゅう、ちゅうう。 首筋に、肩に鎖骨に。 ブラを剥ぎ取り、愛らしい膨らみに。 白地に赤く、愛のしるしが刻まれていく。
「あっ、ああん、あうっ。だめっ、あーーーっ」
翌朝。 振袖に隠された悠理の肌は、赤赤赤赤赤赤、白、くらいの割合で圧倒的に赤の勝利だったのはいうまでもない。
終
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