犬の気持ち By かめおさま
野梨子の細い指先が、ボクの髪をかきあげる時、いつもその瞳に不安な影が落ちる。 そのくせ、彼女の口から発せられるのは、いつだって威圧的な言葉ばかり。
「美童、何をしていますの」 「美童、わたくしの言いつけが聞けませんの」 美童、美童、美童…
ボクはその漆黒の瞳に浮かぶ、微かな揺れを見逃さない。 彼女の心を見逃さない。 彼女の言葉はいつだってボクにはこう聞こえるのだ。
「美童、わたくしだけを見て」 「美童、わたくしだけに触れて」 「美童、わたくしだけを愛して…」と。
野梨子の欲しいのは絶対的な愛。 どんな理不尽なことも、どんな不条理なことも、全てを受け入れる愛。
ボクは知っている。
ボクだけが知っている。 だから、ボクは今日も君に跪く。 君の絶対的な支配に傅くように。
「美童、いい子にしていないと愛してあげませんわ」 野梨子の言葉にボクは少し悲しい顔をする。
彼女はふっと眉を顰め、ボクの髪に細い指をからませる。 「そう、いい子にしていてくださいな…わたくしの美童」
そう呟いて、ボクの頭を抱え込む。
野梨子の心臓がボクの耳元で波打つ。 その鼓動は、ボクにはこう聞こえるのだ。
「いい子にしているから、わたくしをもっと愛してくださいな」
ボクは君の僕(しもべ)だよ。 永遠に変わらぬ、君だけの僕だ。
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