バタン。 タクシーのドアを閉めると、清四郎は寄木造りの別荘を見上げた。 屋根に積もった雪が、日の光を眩しく跳ね返している。 少し目を細め、清四郎は傍らに立つ少女に声を掛けた。
「やっと、ここに来れましたね」 「ウン。あたいは二度目だけどな。さ、入ろうぜ、寒いし!」
威勢の良い声に促され、彼はゆっくりと歩き出した。
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リビングに一歩足を踏み入れると、壁際にある大きな暖炉が目に入った。 映画や物語に出てくる姿そのままの、レンガ造りの四角い奴だ。 悠理が暖炉の傍らを指差す。 「あそこに、すごいでっかいモミの木を飾ってあったんだ。皆で飾り付けをしてさ、キレイだった〜」 「てっぺんに星を飾ると言って、魅録に肩車をしてもらったんでしょう?魅録が『ガキみたいだよな』って言ってましたよ」 「そんなこと言ったのかよ?魅録の奴…でもさ、ほんとにキレイだったんだ。お前にも、見せたかったな」 嬉しげに話す悠理に、清四郎は微笑んで応えた。
「また、今年のクリスマスは一緒に見ましょう」
2ヶ月前、この別荘でクリスマスを過ごすため、仲間とは遅れて一人で車を運転してここへ向かう途中、清四郎は事故にあった。 一時は意識不明の重態に陥った彼だったが、驚異的な回復力を見せ、今ここに静養のために訪れたのだ。 彼の命を救ってくれた、愛しい人と共に。
夕食は、二人でやいやい言いながら作った。 照明を落として、テーブルの上にキャンドルを灯し、二人でワイングラスを重ねた。 静かで心地よい時を過ごし、今は暖炉の前に二人で座り込んでいた。 互いの肩にもたれ、パチパチとはぜる火を二人でじっと見つめていた。
互いの体温を、感じる。 燃える火の暖かさを、感じる。
悠理が、ふと手を伸ばして清四郎の手に触れた。 小さな手のひらで、包み込むと己が唇にあてた。 「あったかい……」 悠理の瞳から、涙が零れた。 「お前の手、あったかい。よかった……」
「悠理…」
抱きしめて、唇を合わせた。
思いが、溢れる。 あの日、冷たさを感じさせない雪の舞い散る中、死を諦観していた彼に「生きたい」と思わせた、彼女の存在。 悠理が、「最後に会いたい」という自分の無意識の呼びかけに応じていなければ、今ここに自分はいない。 あの日、重ね合わせた唇の熱さを思い出す。 もう、抑えてなどいられない熱い思いも、欲望も。
ゆっくりと、悠理の身体を横たえる。 彼を見上げる悠理の目の周りが、頬が、赤く染まっているのは暖炉の火に照らされているせいだけではない。 あの日のように、悠理のセーターをまくりあげ手を差し入れた。 柔らかなふくらみを揉みながら、頬に、首筋にとキスを落とした。 ―――悠理の身体は、温かい。 彼女の温かさを直に感じたくて、衣服を脱がせた。 おずおずと、悠理が応えるように彼の衣服を脱がせようとするのを、微笑みながら手伝い、自分も衣服を脱ぎ去った。 抱き合い、熱い肌を重ねる。 心地よさに吐息を漏らしながら、深く口づけた。
記憶にあるのと同じ桃色の胸の先を口に含むと、悠理は小さく喘いだ。 舌で転がし、軽く吸う。 「あ…あ…」 細い腕が、清四郎の首筋に絡む。 悠理の身体の隅々を、清四郎の舌が這い、味わう。
足の間に手を差し入れると、悠理は大きく身体をのけぞらせた。 既にしっとりと潤った狭間に指を辿らせると、切なげな声が漏れ、溢れるように濡れてくる。 「ん……んんっ…」 小さなしこりを指の先で捕らえ、刺激しつつ、今度は舌で狭間を辿った。 「ああっ!」 悠理の嬌声が高くなり、彼の頭を強く抱きしめた。
あの日、白い雪原の中で彼を受け入れた身体。 だがしかし、ここにいる現実の悠理の身体はまだ無垢なまま。 今始めて、男の欲望を受け入れようとして仄かに色づく場所を、清四郎は丹念に愛撫した。 傷つけたくなくて。 痛みを、出来るだけ感じさせたくはなくて。
「せ、清四郎…」 潤んだ瞳で、悠理が彼を呼ぶ。 「あたい…こんな……」 戸惑ったような、悠理の囁き。 「怖い?」 悠理が、小さく横に首を振る。 「では、気持ちがいい?」 こくんと、首が縦に振られた。 愛しくて愛しくて、口づけの雨を降らせる。
身体に、熱が宿る。あの雪原にいたときのように。 もう歯止めは利かない。我慢することもない。 僕は今、生きてここにいる。 愛しい人も、生きて僕の腕の中にいる。 理不尽な運命に打ち勝ったのは、二人の、お互いを強く愛する心。
ゆっくりと、悠理の中に清四郎は己を埋めていった。 悠理が眉を寄せる。 硬く閉じられた瞼に口づけながら、清四郎は悠理に埋もれる。 温かさに包まれ、意識が眩みそうになる。 彼に、生きたいと切望させた、悠理の温もり。
結ばれる。心も、身体も。 「ああ、悠理、悠理…」 あの時のように、その名を呼んだ。 「清四郎、大好き……」 喘ぎながら、悠理が言う。
「悠理…愛してる。愛しています、あなたを……」 何も考えられなくなるほどの心地よさに包まれながら、清四郎は何度も繰り返した。 愛の言葉を。 素直な、思いを。
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パチパチと薪のはぜる音にふと、目を開けた。 暗い部屋の中、暖炉の周りだけは明るく、暖かい。 目を上げて窓の外を見れば、また雪が降り出している。 しんしんと、降り積もってゆく。 明日は、雪かきをしなければならないだろう。
「ん……」 腕の中の愛しい人が、身じろぎをした。 その細い肩に毛布を掛けなおし、抱きしめる。 柔らかな髪に唇をよせ、清四郎はゆっくりと瞼を閉じた。
瞼の裏に、楽しげな情景が浮かぶ。 暖炉の脇に、2メートルを越すような大きなモミの木。 天使、星、教会、雪の結晶、蝋燭、色とりどりのボール、鐘、リボン…… たくさんのオーナメントを、瞳を輝かせながら取り付けていく悠理。その隣には、自分。 魅録と美童が笑いながら手伝い、キッチンからは可憐と野梨子が作るご馳走のおいしそうな匂いが漂ってくる。
それは、きっと今年もまた皆で過ごすであろうクリスマスの情景。 これから先、何度も繰り返すであろう光景。 暖かな雰囲気の中、信頼する仲間たちと、愛しい恋人と。
皆が笑い、グラスを寄せて声を掛け合う。
「メリークリスマス。これからも有閑倶楽部に、幸あらんことを!」
end
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