年の初めのためしとて。 文:麗
年も改まり、今年最大の寒波がやってきた今日。 お馴染み有閑倶楽部のメンバーは、剣菱悠理くんのおうちにて、恒例の新年会で盛り上がっております。 それでは、いつものように成績順でのご挨拶を―――。
「昨年中は身にあまるご贔屓ありがとうございます」 「今年も変わらずのご愛顧を」 「有閑倶楽部一同」 「つつしんで」 「お願い申し上げます」
「まる…」
最後にふてくされて言ったのは、当然ながら悠理くんです。
「不満そうですな」 「当然だ!毎年毎年…。今年こそ人気の順にやろうって言ったのに〜〜〜」 「めだっていいじゃないですか。それに最後を締めるのは、やはり一番の人気者でなくてはねぇ。紅白歌合戦だって、今年もス@ップが締めたでしょう?」 憤慨する悠理を清四郎が口八丁でなだめ、単純な彼女はすぐに機嫌を直しました。
「そっか〜、そうだよな! やっぱ大トリを飾るのは、あたいじゃないとな!」 「ええ、そうですよ。大役ご苦労様でした。さぁ、一献」 清四郎は悠理の頭をよしよしと撫でると、彼女にコップ酒を差し出しました。 「お、サンキュ。じゃあ、清四郎も〜」 悠理も清四郎のグラスに酒を注ぎ、二人は顔を見合わせてにっこり笑うと、同時にコップ酒を飲み干しました。
「…相変わらず仲がいいわねぇ、あの二人」 「まったくだ」 鮮やかな振袖姿の可憐に料理を取ってやりながら、紋付袴姿の魅録が答えました。
「悠理を扱えるのは清四郎ぐらいだからね。いいコンビだよ」 「まったくですわ」 頷く野梨子の落ち着いた柄の着物に目をやり、美童は目を細めました。 「やっぱり野梨子は和装が似合うなぁ。本当に、大和撫子ってカンジだね」 「まぁ、ありがとうございます。美童も素敵ですわよ。私、美童の紋付袴姿って好きですわ」 「ホント? 嬉しいな、ありがとう」
「…アホらし。あいつらもなんのかんの言ってもお似合いかもね」 褒めあう美童と野梨子の姿に、可憐が眉根を寄せました。 「確かに。でも一番のお似合いは、やっぱりあいつらだと思うぜ」 魅録が指差す先には、ソファでくつろぐ清四郎と悠理。 「新年会は着物で」との不文律にもかかわらず、悠理は黒白ボーダーのニットワンピース、清四郎は黒タートルに白いシャツと、何気にペアな洋装です。
「なぁ、清四郎聞いてくれよ〜。うちの母ちゃん、最近ジャ@ーズに嵌っててさ、兄ちゃんだとトシ食っててダメだから、あたいにジャ@ーズに入れって言うんだよ〜」 もういい加減に飲んで気分が高揚しているのでしょう、グラスを片手に、清四郎ににじり寄りながら悠理が話しかけています。 「ほぉ、おばさんも相変わらず無茶なことを。しかし、悠理ならいけるかもしれませんよ」 清四郎もコップ酒をぐいと飲み干しながら、淡々と答えています。 「何言ってんだよ! あたいは女だぞ!」 「ああ、あそこは男性だけでしたか。悪い悪い」 グラスを振りかざした悠理の手をやんわりと掴んで止めながら、清四郎は茶化すように答えました。 悠理はその手を軽く振り払うと、清四郎の膝に乗りかかります。
「そう言い返したらさ〜、母ちゃんってば、じゃああそこの事務所から誰かを悠理の婿に!って言い出してさ〜」 そう言うと、悠理は甘えるように清四郎の肩に頬を擦り付けました。 「それはまたいっそう無茶な考えですな。おばさんときたら…」 清四郎は眉根を寄せ、悠理の腰に手を回しました。
「だろ? 何とかしてくれよ、清四郎〜〜。あれ…おまえって、こんなとこにほくろがあったんだ〜」 清四郎のうなじにぽつんとほくろがあるのを見つけ、悠理は指先でそれをつつきました。 「悠理にも同じとこにほくろがあるんですよ。知ってました?」 「え、マジ?」 「ええ。ほら、ここに」 そう言って清四郎は、ちょんと悠理のうなじを突きました。
「ぎゃ! くすぐったいじょ!」 敏感な悠理は、首をすくめて身をよじりました。 「それにここにも…ほら、ほら」 それに生来のS気質を刺激されたのか、清四郎はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、悠理の首筋をあちこちと突き始めました。 「やめろってば! ぎゃはははは!」 悠理は身体を清四郎に押し付けて、彼の腕を止めようとするのですが、それに負けるような清四郎ではありません。 するりと腕を引き抜くと、今度は悠理の鎖骨部分をめがけて指を出しました。 「おや、こんなとこにもありますよ。ほら」 「ぎゃーーっ! やめろ〜〜」
「あんた達…いい加減にしてくれない?」
「ん?」 「は?」 笑い転げていた悠理と、夢中で彼女を突きまくっていた清四郎は、友人の冷たい声に動きを止め、顔を上げました。 二人の前には、腕組みをして二人を見下ろしている可憐。その後ろには、何故か顔を赤くしてそっぽを向いている魅録と、呆れたような表情の美童と野梨子がいました。
「なんでしょう?」 「なに?」 肩に回った悠理の手を解こうともせず、怪訝な顔で清四郎が問い、悠理も上目遣いに友人達を見上げました。
「何ってもう、新年早々ベタベタベタベタ…。だいたいあんた達って、いつの間にそういう関係になったわけ?」 柳眉を逆立ててまくし立てる可憐に、清四郎と悠理は顔を見合わせました。
イラスト By たむらんさま
「そういう関係って何が? あたいら、なんか変か?」 「いいえ、別に」 長いまつげにふちどられた目を大きく見開いて悠理が問うと、清四郎は軽く首を横に振って唇の端を下げました。 そうして、二人はおもむろに可憐に向き直りました。
「「何か問題でも?」」
「……」 二人に揃って無垢な表情で問われ、可憐は絶句しました。 腕組みをしていた手がパタリと力なく落ち、女性らしい肩が小刻みに震えていました。 「あ、あんた達って…あんた達って…」 「自覚がないの!?」 と叫びかけた可憐の肩を、魅録がぽんと叩いて止めました。
「やめとけ。言うだけ無駄だ」 「そうそう。正月早々、馬に蹴られる必要もないよ」 美童も溜息をつきながら同意しました。 「そうですわ可憐。あの二人にとっては、あれが普通になってしまっているのですから」 野梨子は呆れた風に言いながらも、優しい瞳で清四郎と悠理を眺めました。 可憐の怒りから開放された二人は、何事もなかったように話の続きを始めていました。
「…でさ、どこまで話したっけ、清四郎?」 「悠理の身体にほくろがいくつあるか、ってとこまででしたよ」 「え、そうだっけ?」 「ええ。じゃあまずは、顔のほくろから数えていきましょうか。ここにひとつ…」 「ぎゃ。くすぐったいって!」
悠理を膝に乗せたまま、清四郎の首に腕を回したまま、仲睦まじく戯れている二人の様子に、さしもの野梨子も眉を寄せ大きな溜息をつきましたが、すぐに気を取り直して微笑みました。 「さぁ、今日は飲みますわよ」 「賛成! 酔っちゃえば細かいことなんてどうでもよくなるしね」 美童が笑いながら、野梨子にグラスを渡しました。 「あたしも今日はとことん飲むわ! 魅録、注いで!」 「おう、付き合うぜ」 魅録が苦笑しながらも、可憐のグラスに酒を注ぎます。
「あ、あたいも付き合う〜」 「しょうがありませんな。正月ですし」 「あんた達はいいの!」 背後でグラスを掲げた清四郎と悠理を振り返って一喝してから、可憐は目の前の仲間達に向かって艶然と微笑みました。
「それじゃ、今年もヨロシクね」 「こちらこそ」 「おう、よろしくな」 「乾杯!」
かちんとグラスを合わせ、四人は終わりなき世のめでたさを共に祝い合いました。 終わりなく戯れ続ける友人二人には、背を向けたままで。
end (2008.1.2up)
「いい加減にしてくれない?」 ……いい加減にしなければならないのは、こんな話を書いた上に、それを皆さまにお目にかけているワタクシでございます。(笑) なにとぞ、なにとぞ、寛大なお心でお許しいただきましたうえで、本年もどうぞよろしくお願いいたします。m(__)m
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Material by 素材通りさま