はないちもんめ イラスト:千尋さま 文:麗

 

 

 

「かーってうれしい はないちもんめ」

「まけーてくやしい はないちもんめ」

 

風にのって、どこからか子供達の歌うわらべ唄が聞こえてくる。

 

懐かしいこと。私も小さい頃よくああやって遊んだわね。

「どーの子が欲しい あーの子が欲しい あーの子じゃわからん 名ーを呼んでおくれ」ってね。

幼いながらに何度も自分を「欲しい」って言ってもらえると、誇らしくて嬉しかったわね。

逆に言ってもらえないと、「私、嫌われてる?」なんて寂しい気持ちになったり。

あれもなかなかに深い遊びよねぇ。

 

そう、小学部の時の事を思い出したわ。

春の陽気が気持いい時期で、昼休みに校庭で幼稚舎の子達が花いちもんめをしてるのを、友達と笑いながら見てたのよ。

うちのこまっしゃくれた弟はなぜか女の子に人気があるらしくて、何度も「清四郎ちゃんが欲しい」と言われては、あっちに行きこっちに行きを繰り返していたっけ。

お隣の日本人形のようにかわいらしい野梨子ちゃんもご同様で、男の子達が「野梨子ちゃんが欲しい」とキンキンとした叫び声をあげていたわね。

 

そんな中で、なかなか名前を呼んでもらえない子が一人いたのよね。

ちょっとエキセントリックで乱暴なところがあるために、おとなしい子が多い我が学園では浮いてしまいがちだったあの子。

最初は楽しそうな顔で遊んでいたその子も、誰も自分を「欲しい」と言ってくれない事に傷ついたのか、憮然とした表情になっていき、だんだん顔の色が真っ赤になってきて…

「あ、あ、あの子、泣いちゃう…」って、見ていた私たちが心配し始めた時―――

 

 

「悠理ちゃんが欲しい」

 

 

はっきりとした大きな声でその子の名を呼んだのは、うちの弟だった。

 

「でかした! 我が弟よ」と思ったわ。

さすがは優等生と言われるだけある。皆に敬遠されている子でも、ちゃんと平等に接してあげてるのね、って。

 

「あ、あたい?」

はじめて「欲しい」と名を呼ばれたその子は、驚いて顔を上げ、赤かった頬をますます赤くしてたわ。

その後、「雲に乗っておーいで」と言われたその子は、

「雲? えーっと、キントウンみたいなやつか? よーし!」

ってすごい勢いで走っていって、迎える側の子達は「きゃあっ!」って悲鳴を上げていたわ。

 

ふふふ…思い出すわね。

懐に飛び込んでこられて、ぎょっとしたような表情のあいつと、はじけんばかりの笑顔を見せていたあの子。

あの頃の二人は想像もしていなかったでしょうね、今の自分達を。

 

 

 

「悠理が、欲しい」

 

一年前、あの日と同じように桜の花びらが舞い散る中で、あいつは悠理ちゃんにプロポーズをしたの。

悠理ちゃんはあの日と同じようにはじけんばかりの笑顔で、そしてやっぱり頬を真っ赤に染めて頷いた。

そしてそれを見つめるあいつは、あの時と違って自信に満ち溢れた微笑を浮かべていて。

十何年の時を経て、彼女に飛び込んでこられても、しっかりと受け止められる男に成長したのねって、感慨深かったわ。

 

 

明日、悠理ちゃんはあの日の空に浮かんでいた雲のように、真っ白なドレスに身を包んで清四郎の元に嫁いでくる。

 

 

 

勝ーってうれしい はないちもんめ

 

悠理ちゃんが欲しい

 

 

 

end

(2008.4.9up)

 


 

「はないちもんめ」、多くのわらべうたと同じようにこの唄にも影の意味があるようですが、子どもの頃はそんなことなど何も知らずに無邪気に遊んでましたよね〜。    *

…幼稚園児でも清四郎は知ってたかな?(笑)

 

この唄も地域によって色々あるようですが、SSに書いたのは私が小さい頃に遊んでいたものです。

「勝ーって嬉しいはないちもんめ 負けーてくやしいはないちもんめ

どーの子が欲しい あーの子が欲しい あーの子じゃわからん名を呼んでおくれ

@@ちゃんが欲しい 何乗っていくの @@に乗っておーいで」

で、呼ばれた子はそれに乗っている真似をしながら相手方のほうに行っていました。

東京ではまた違う遊び方のようですが、そこはひとつ大目にみて下さい。m(__)m

 

 

 

 

 Material by Art.Kaedeさま