天使の思惑 By ポアンポアンさま

 

 

 

グラスのぶつかり合う音。
シャンデリアの眩しい光。
賑やかな笑い声。


毎年、春に行われる剣菱商事創立記念パーティーは、数ある剣菱のパーティーの中でもひと際華やかだ。
そのパーティーに、僕は幼少の頃から参加させられている。
黒のタキシードに、真っ白なシャツ、タイは、気分によって毎年色や形を変えている。
普段は母親に似て少々ハネ気味の髪だが、こういう日だけはちょっとマシに見えるようセットする。
サイドは、ワックスで固めて後ろへ流し、前髪は無造作におろすという具合に。

準備が整い、パーティーに出ると、お決まりのように4人が揃ってからかいに来た。
美童サン、魅録サン、可憐姉サン、野梨子サンだ。
「僕の魅力には勝てないけど、いいんじゃない?彼女はできたの?」
そう言って、髪に触れてくる美童サンは、昔から相当なナルシスト。
今は、スウェーデンの国の機関で働いているらしく、時々日本にやってくる程度だが、このナルシストは、そのうち、バラでも咥えて来るんじゃないかとオレは思っている。

「横から見たら清四郎で、前から見たら悠理かよ。いつ見ても面白れぇな!」とオレの肩を回しながら相好を崩して笑うのは魅録サン。
この人がオヤジの最も信頼する人で、警察の何だか特殊な部署にいるらしい。オレとも一番話しが合うし、バイクにも乗せてくれるし、大好きな人だ。

「まぁ、また可愛くなって!変な虫つかないようにしておかないとね♪」
そう言って、腕にピッタリと胸をつけて来るのは、宝石商で働く可憐姉サン。
ドキドキしている心臓を悟られないよう、そっと巻きつかれた腕をはずす。
美人でスタイルも良く、お洒落な有名雑誌からいつも取材を受けている可憐姉さんだが、恋多き女と言われつつ、一向に結婚をする気配がない。
究極の玉の輿狙いだそうで、今後いい男が現れなかった時の保険にと、目下、オレを支配下に置きつつある。

「この前のお稽古、サボリましたわね。そういう姿勢ではいつまでも清四郎は抜けませんわよ」
上品にコロコロと笑い、痛いところを突いてくるのは、野梨子サン。

オヤジの幼馴染で、着物の似合う和風美人。オレの母親みたいな人。

「ど〜も、皆さんもお元気そうで」
気恥ずかしさや、照れもあって投げやりに答える。
赤ん坊の頃から見られているこの人達に、カッコつけたところで、またからかわれるだけだ。
「そういう態度が清四郎そっくり」
「ですわね。目つきまで」
女性陣が言えば、
「うまくミックスされたよねぇ」
「犬も雑種の方が賢いっていうもんな。あ、悠理も犬のようなもんか。そんなこと証明してどうすんだよ」
大笑いして返す男性陣。
もう、好きにしてくれ!な気分だが、誰もが優しい。

「肝心の悠理と清四郎はどこなの?」
可憐姉さんが聞いてくる。
オレは、親指の先でクイクイと会場の奥を指差した。

招待客がカクテルグラスを持って会場の真ん中で談笑しているというのに、色気のある肩を大胆に出したドレスで(但し豹柄)料理にがっついている悠理の口の周りを、オヤジがペーパータオルで拭いてやっている。
悠理は、ギャーギャー言っているようだが、オヤジが、皿を持っている悠理の顎をつかみ、クイと上を向かせる仕草は、まるでキスでもしそうな雰囲気で。

――― 何やってんだよ。あいつは!見ているこっちが恥ずかしくなるぜ。

「いつまでも変んないわねぇ、あの二人は」
「呆れますわね、ほんとに。見ているこちらが恥ずかしくなりますわ」
「あいつら、人の目ってもんを気にしないんだよな、二人とも」
「本人は無自覚でやってんだろうけど、清四郎の照れを知らない愛情表現はいいよね。僕もマネしよっと」

オレの心の内のほとんどは、4人の大人が代弁してくれる。


でも、複雑な思いだけは、きっと誰も知らない。

いつか、悠理をエスコートする役をやりたい、なんてオレが思っていることを。

アイツが悠理を離すはずがないんだけどね(笑)

「ねぇ、プリンとケーキ、どっち食べたい?」
きっと、もうすぐ悠理が僕のところへ飛んでくる。

後ろからしっかりと見守るアイツを連れて。

 

 

 

end

(2008.5.13up)

 


 

大好評、エンジェルシリーズの第三弾〜♪

しかしこの「オレ」のビジュアルは、いつもながら最高にソソリますねぇ。

私も可憐同様、ツバ付けときたいわっ!

 

 

 

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