「夜明け前」

 

 

 

目を覚ますと傍らには幸せそうに眠る悠理の姿があった。
こうして、悠理が自分の腕の中で眠っているなんて、昨日までのことを考えるとまるで夢でも見ているかのようだった。
昨夜、自分の気持ちを試す為に悠理に会いに来た。
そこで知らされた悠理の気持ち。
自分の思いあがりで悠理を傷つけるところだった。
そして手に入れた何より大切な存在。

悠理が少し身じろいでシーツがずれる。
暗い部屋でもわかるその白い身体には、昨日自分がつけた紅い刻印がいくつもついている。
悠理の全てを知りたくて、全てに触れたくて、全てを感じたかった。
そして印を刻むたびに悠理の唇から零れる声が聞きたかった。
誰にも聞かせたくない声、この声を聞くのはこれから先自分一人であって欲しいと願う。
今更ながらに思う。
―――他の男に渡せるわけが無い。
そんな事を言えば、悠理はなんと答えるだろう。
昨日のように怒ってくれるだろうか。赤い顔をしながら「当たり前だろ」と。

いつのまにかカーテンの隙間から光が漏れるようになり、廊下からも時折足音が聞こえる。
剣菱家の朝が始まったようだ。
じきにメイドが悠理を起こしにくるだろう。
その時、今のふたりのこの姿を見られては後が面倒だ。悠理とはもう少しの間、普通の恋人として過ごしたい。だがおじさんや、おばさんにバレれば、
(・・・・・手放しで喜ぶ・・・か?)
だとしても、他人に見せる事のできない姿である事には違いない。
いつまでもこのままでいたいと思う気持ちを、他人より多く持ち合せている理性で押しとどめ、起こさない様にそっと悠理の頭の下から身体を抜いた。
昨夜脱ぎ散らかした服を着ると、ベッドに腰掛け未だ眠る悠理に口付ける。
ぐっすり眠っていると思っていた悠理の目が少し開いた。
「せーしろ・・・?」
「悪い、起こしてしまったか」
「ううん。・・・帰るのか?」
ベッドから腕を出して清四郎の服を掴む悠理。
まるで捨てられた子猫のような心細げな瞳に見つめられ、清四郎の理性はどこかへ吹き飛びそうになった。
今にも抱きしめてしまいたい感情を何とか振り払うと、その瞼に一度唇を落とし、唇を塞ぐ。
「今日も学校がありますしね。一度家に帰りますよ」
自分でも何とも色気の無い答えだとは思うが、他に言いようが無かった。
「・・・そか」
「悠理も起きたのならちゃんと服を着てくださいよ。メイドさんが起こしに来た時、そのままじゃびっくりしますよ。」
そう言われて、悠理は初めて今自分が何も身につけていないということを思い出したようだ。
同時に昨晩の記憶が蘇ったのか一気に顔が赤くなっていった。
どうやら今まで半分寝ぼけていてそこまで頭が回らなかったらしい。
「///わっ、わかってるよ」
急いで服を掴んでいた腕を引っ込めるとシーツを眼の下まで引き上げた。
そんな悠理に優しく微笑むと
「愛してるよ、悠理」
と言ってベッドから離れた。
「バ、バーカ!何ハズい事言ってんだよ!」
赤かった顔がさらに赤くなった。
テレまくる悠理に「遅刻するんじゃありませんよ。」と言い残し清四郎は部屋を後にした。

 

 

 

 

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 Material by macherie さま