「XもYも人生には必要ないと思う」
ちょっと、気合なんてモンを入れてみた。
「な、な、このXがさ、こっちに来てこーなって・・・・んで、Yが・・・」 「おっ、そうですよ。やっとわかってくれましたか。じゃぁ、これもできますね」 「おうっ」
へへん。やっぱイイわ。こいつのこんな顔。 どんだけ聞いてもわかんない時は全然わかんなくて。 そしたら、すんげー呆れた顔されて。 そんな顔、マジで憂鬱になる。 ―――問題がわかんないからとか、怒られるって思うからじゃなくて。 だって、なんかやっぱあたいってこいつには合わないんじゃないかなーとか思っちゃうんだ。 勉強中なんて言ってることの半分もわかんないし。 そうでなくても普段からだって、こいつの趣味の十分の一だって、きっとあたいはわかってない。 わかんのは、たぶん武道のことだけ。 それって言葉いらないじゃん。・・・みたいな、さ。 野梨子なんて、どんな話でもちゃんと噛み合った話してるのに。 やっぱ、ずっとこいつの傍にいた野梨子には敵わないんだろうなぁ。
・・・なんで、こいつあたいと一緒にいるんだろ。
あたいはこんな風に隣にいるだけで、未だに結構ドキドキもんで、ノート覗きこんで来る時に顔が近付いたり、ちょっと手とか触れるだけでも顔赤くなって、バカみたいに舞い上がっちゃってるってのにさ。 他の誰かがこいつの傍に居んのもヤだし、会えない時でもこいつのことばっか考えてる。 あたいの中、全部こいつに持ってかれてるってか、もうこいつ抜きの自分って想像出来ない。 ちょっと前まで、夢にも思わなかったけど、あたいってこいつのことめちゃ好きなんだ。
でもこいつは・・・・正直よくわからん。 好きだ、とは言ってくれたけど。 だからってどーするわけでもなく。 てか、どっちかって言うと、好きだって言ってくれたのはもしかしたら幻聴だったのか、なんて思ってしまうようなことばっかで。 うーん、マジでホント全然別のこと言っただけだったんだったりして。 例えば、基本的なトコで「スキーだ」とか。 いや何がスキーなのかわかんないけどさ。 後は、「何とかスキー」。 ほら、なんかクラッシックの人でいるだろ、そんな名前のオヤジ。
「見つめてくれるのは嬉しいんですけどね、今はこっちに集中してもらえませんか。これ以上成績が下がったら、あいつ等になに言われるかわかったもんじゃありませんよ」 「べっ、別に見つめてなんかないやいっ!自惚れんな」
うーん。嬉しいって。 ・・・へへ。 真面目な顔して言うなよう。 嬉しいじゃないか。 あたいホント、ベタ惚れだよなぁ。
ホントは勉強なんかしたくない。 XがどーなろうとYがどーなろうとあたいの知ったこっちゃない。 でも、あたいの成績が下がったらこいつの所為になっちゃうから。 「勉強なんて言って、何の勉強してるんだろうねぇ」 なんて、美童辺りに勘繰られるのは目に見えてるし。 こいつだって、そんなやってもないことで変な目で見られんのヤだろうし。
だから気合なんてものを入れてみる。 ・・・んだけど、嫌いなモンにだから、そーそー続くもんじゃないんだよなー。 あぁかったるい。 XもYもあたいの人生に関係ないじゃん。 こんなことより、どっか遊びに行ったり美味いもん食いたい。
「なー清四郎?」 「なんですか?」 「もう勉強ヤダ」 「で?」 「遊びに行こうよお」 「駄目です」
恋人ってさぁ。違うよな。 こんなんじゃないよな。 だって遊びに行く=デートだぞ? 恋人同士ならデートに行きたいもんだろ。 なのにぃ。 やっぱりあたいらって恋人じゃないのか・・・? ダチ?カテキョ?飼い主?
「清四郎のバカ」 「じゃぁそのバカに勉強教えてもらってるお前は何モンなんですか?」 「そーいうバカじゃないわい」 「じゃぁどーいうバカですか」 「それがわかってないからバカだってんだよ」
気合なんて二度と入れるかっ。 そりゃあたいがバカだから清四郎だって仕方なく勉強教えてんだろうけどさ。 嫌いなもんしょうがないじゃないか。 あぁヤダヤダ。勉強も清四郎も嫌い。
うそ。ごめん、待った。 清四郎はやっぱ嫌いじゃない。
あたいってば本当にバカだぁ。 なんでこんなヤツ好きになっちゃったんだろうなぁ。
「悠理」 この声か? それともこの腕? この胸も候補だな。 この手も・・・・・。 って、外見だけかよ。
いやいや。んなことないぞ。 ガキみたいな性格とか、何があっても一緒なら大丈夫ってとことか。 てか、そんな、好きになった理由なんてわかんない。 こいつだから好きなんだ。
ってなにあたい弁護しちゃってんだよ。
「悠理。悪い、言いすぎた。怒るな」 なに。 なに、こいつ。あたいが黙ってたから怒ってると思ってんのか? ぎゆって、こんな風に抱きしめてくれたのなんてそれこそ「好きだ」って言ってくれた時以来〜。
「ゆうり」
わ〜〜〜。あたい今顔真っ赤だよな。 どーすんだよ。 うわ〜。 えーっと、えーっと・・・・。
「せ、清四郎!」 「ハイ」 「あのさ」 「ハイ」 「そのー・・・・・・」 「ん?」
ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、どーしよお。 言っちゃう?言っちゃう? 言っちゃってもいいかな。
「あの、えーと」 「あぁ」 うわーん、この声! 心臓が痛いっ。 「勉強もさ、やんなきゃいけないのはわかってる。でもね、せいしろ・・・あたいはもっと、その・・・・・」
「あぁ」
「こーしてたい」
"好きだ"って、"お前が好きだ"って、もっかい言って欲しい。
あたいのことだけもっといっぱい見て欲しい。 あたいが他の誰かと自分を比べなくなるまで。
――――――清四郎の腕が更にあたいを、抱きしめた。
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