「試験前」

 

 

「ほら、何でそこにXがくるんですか。そこは・・・」
「あ〜もう、わかんねーよ!頭がパンクしそうだー!」
「今度のテストで赤点取ったら、この夏休み全部補講ですよ、いいんですか」
「わーってるよ、それがイヤだから、お前の嫌味に耐えてまでこんなことやってるんだろ!」
「ほー、人がわざわざ時間を割いてまで勉強を教えてやってるというのにそういう言い方をするんですか。僕は別にいいんですよ、悠理の夏休みがどうなろうと知ったこっちゃないですからね」
「あ〜ん、清四郎ちゃ〜ん、あたいが悪かったです〜。夏休み全部補講なんかになったらどこにも遊びにいけないじゃないかぁ〜」
泣きながら清四郎にすがり付いている。
「そう思うんなら、さっさとこの問題を解く!まだまだほかにやる事はいっぱいあるんですからね」
「あっ、そうだ!」
急に明るい顔になった悠理にいぶかしげな顔をする。
「なんですか?」
「夜中に学校に忍び込んで、テスト問題を盗んできちゃえば、覚える事少なくてすむじゃん!あたいってあったまイー!」
清四郎は思わず頭を抱え込んだ。
「・・・バカだ、バカだとは思ってたけど、性根まで腐ってるとは思わなかった」
「なんだよー、ちょっとした冗談だろ、そこまで言うことないだろ」
「冗談とは思えない顔つきでしたけどね」
「う〜。じゃ、じゃあさ、先公達を買収しちゃう・・・」
ギロっと睨む清四郎に最後の方の声は小さくなっていく。

今二人は清四郎の部屋にいる。
校長の命で、期末テストで赤点を取ったものは夏休み中補講と決まった。
それがイヤで悠理はこの2、3日清四郎に勉強を教えてもらっていた。
最初は生徒会室でやっていたのだが、横から茶々を入れる奴らや、色んな誘惑が多い為、
勉強するのに最適な清四郎の部屋でやる事になった。
悠理とて清四郎に勉強を教えてもらえば散々バカにされるのはわかっていた。だから野梨子に頼むつもりだったのである。
野梨子も言うことはキツイが清四郎よりはましだと思ったからだ。なのにいざ頼もうとしたら先に可憐に取られてしまった。
丁度その場に居合せていた清四郎が「じゃぁ悠理は僕が教えますよ」などと言ったが為にこういう事態になったのである。
言った清四郎も、言われた悠理も後悔していた。
(こんな奴ひきうけるんじゃなかった)
(こんな奴に頼むんじゃなかった)

まだ何かぶちぶち言っている悠理に、清四郎はため息をつきながら言った。
「悠理、その問題が解けたら、食事にしましょう。それなら多少やる気が出てくるでしょ」
「飯!?本当だな!約束だぞ!よぉーし!」
急にやる気を出した悠理はうんうん唸りながら必死の形相で問題を解いている。
(単純な奴だなぁ)
ふと笑みが浮かんでいたらしい。
顔を上げた悠理に「なにニヤけてんだよ。気持ち悪いやつだなぁ」と言われてしまった。
「そんな事より出来たんですか?」
自然と緩んだ顔の理由が思い浮かばなくて、話をそらした。
「一応な」
「どれどれ」
ノートを覗き込む。
「答えは間違ってますけど、考え方は合ってますよ。計算間違いですね。でもまぁこれならこの種の問題は大丈夫でしょう」
「ホントか!?じゃ、メシメシ!」
「ハイ、ハイ。今用意してもらってきますよ。その間にもう一問解きましょうか。さっきのと同じ種類の問題ですからね、今度は間違えないで下さい」
満面の笑顔で言う。
「清四郎の嘘つきー!メシ食わしてくれるって言ったじゃないかー!」
「イイでしょ、用意するまでにもう一問解けるんだから。ほらっさっさとやる!」
「くそー!テストが終わったらこの礼はたっぷりしてやるからな!覚えとけよ!」
「それはそれは、楽しみにしていますよ」
そう言いながら清四郎は部屋を出ていった。

食事を終えてなお二人は部屋に居た。
悠理はXがどうのYがどうのとぶつぶつ言いながらノートに向っている。
清四郎は、その横で小説を読んでいた。悠理にはわからなくなったら聞けと言ってある。
その内に悠理の声が聞こえなくなった。
「悠理?」
声をかけてみるが反応がない。
どうやら、ノートに向ったままの姿勢で寝ているらしい。
(器用な奴だな・・・。まぁ仕方ありませんね)
散々頭を使って疲れているところに腹いっぱい食事をすればこうなるか。
悠理はすやすや気持ち良さそうに眠っている。
「起きろ悠理」
肩を揺すってみる。起きる様子がない。
一旦寝たらなかなか起きない悠理である。
清四郎はあきらめて悠理を抱えて自分のベッドへと運んだ。
悠理の頭をくしゃと撫でると
「この礼は後でたっぷりしてもらいますからね」
客間で寝るべく電気を消して部屋を出た。

 

 

 

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