「虫さされ」
「あら、悠理その首筋どうしたんですの?虫にでもさされたみたい」 生徒会室で放課後のお茶を飲んでいると隣に座っていた野梨子が悠理の首筋に気付いた。 一見したところはわからないが耳の後ろあたり―髪の毛で隠れるか隠れないかというあたりに紅い印があった。もちろん昨夜清四郎がつけたものである。 「そ、そうなんだよ。気付いたらこうなっててさぁ、痒くって仕方ないんだよねー」 一瞬向かいに座って新聞を読んでいる清四郎を睨むと、わざとらしく掻いてみせる悠理。 「いやーだ!まるでキスマークみたいじゃない!」 そんな悠理の首筋を可憐も覗きにくる。 「いやですわ、可憐たら。はしたない。・・・でも、そんな風にも見えますわよね。」 野梨子もはしたないと言いつつ、可憐の言葉でもう一度その場所を見る。 「な、なに言ってんだよ、そんな事あるわけ無いだろ!」 「なーによ、そんな真っ赤な顔しちゃって!まさかホントにそうなの?!うっそー信じられない!ねっ、ねっ、相手は誰なのよ!」 「だーから!違うって言ってんだろ!いい加減にしろよ!」 「えー!お前そんな男いたのかよ、悠理!マジかよ!誰だよ、その相手は!」 魅録までもが心底驚いた様にテーブルに身を乗り出して聞いてくる。 「魅録!お前までなに言ってんだよ!んなわけないだろ!」 「は〜、悠理もやっぱり女だったんだなぁ」 「よねぇ〜。意外だわぁ」 「悠理、今度相手の方、紹介してくださいな」
「ね、清四郎。良かったね。悠理とうまくいったんだ」 4人が騒いでいる傍で、美童が隣で何事も無いような顔をして新聞を見ている清四郎に小声で言った。 「何がですか?」 「あのキスマーク、清四郎だろ?」 「・・・何の事ですか?」 「イヤだな〜、僕にこういう事で隠し事できると思ってんの?色恋沙汰に関しちゃ僕の方が先輩なんだからね」 「あれがキスマークだとして、どうして相手の男が僕だと思うんですか?」 なおもとぼける清四郎。 「僕さ、前から清四郎が誰かのこと好きになったなぁっていうのは感じてたんだ。だけど相手が全然誰だかわかんなくてさ。でもさっき悠理が野梨子にキスマーク見つけられて焦ってたとき一瞬清四郎のこと怒ったような顔して見てたんだよね。これはなんかあったなと思ってさ」 「・・・それだけですか?」 「うん、それだけ。あ、後こんなとき絶対清四郎が一番に悠理のことからかうのに今日に限って、何も言わないじゃない。おかしーよねぇ」 フフーンと得意げに笑う美童。 「これ以上とぼけてみても無駄ですか」 自信ありげな美童に観念したのか、意外とあっさり清四郎は認めた。 「でもまさか悠理だったとはなぁ。僕も驚きだよぉ。まぁお似合いっちゃお似合いだよね。で、どうすんの?みんなに言うの?」 「言えると思いますか?あそこまで必死になって否定している悠理を見て・・・」 確かに、とうなずく。 魅録、可憐、野梨子はいいおもちゃができたとばかりに悠理をからかっている。 悠理はそんな三人に真っ赤な顔で「これは虫にさされたんだー!」と否定し続けていた。 「なーんで、あそこまで、隠そうとするかなぁ。あれがキスマークだってバレバレだよぉ」 「ですよねぇ。全く諦めが悪い」 しれっと言う清四郎に美童はニヤッと口元をあげた。 「なんだ、っていうことは清四郎も狙ってつけたんだ。やるねー」 「狙ったという程でもないんですけどね。あーぎりぎりかなぁぐらいは思いましたよ」 他人事のように言う。 「そろそろ助けに行かなくていいの?王子様としては」 「助けると言ってもねぇ・・・」 新聞をずらして四人を見てみるが、 「ここで僕が行って、相手が僕だってあいつらにバレたら、逆に後が怖そうですしね」 「・・・だね」 「あそこまで隠したいのなら、ここは悠理に自力で乗り切っていただきましょう」 にっこり微笑むとまた新聞に目を移した。
おわり
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