恋の不思議

 

 

 

「あつ…」

 

朝6時すぎ。暑苦しくって、目が覚めた。

エア・コンディション完備、24時間常に快適な室温に保たれているはずのこの部屋で。

原因は明白、あたいの身体を背後からすっぽりと覆うように抱きしめて眠っている、清四郎の身体の所為だ。

 

清四郎の身体は熱い。

普段のクールな生徒会長の外面からは、想像も出来ないくらい。

それは、恋人になってはじめて知った、清四郎の意外な面のひとつだ。

 

 

 

ずっと有閑倶楽部の仲間で悪友だった清四郎に、「おまえが好きだ」と告げられたのは1ヶ月前のこと。

「え、え、え?」とパニくるあたいに、清四郎は真剣な顔で「おまえは? 僕のことをどう思ってる?」と聞いた。

「ちょっと考えさせて」と頼み、それから3日間、あたいは少ない脳みそで一生懸命考え続けた。

授業中も、部室にいるときも、寝ても覚めても、それこそ、飯食ってる時でさえ。

 

そしたら、出てきた答えは、「好き」だった。

 

 

「あ、あのさ、こないだのアレのことだけど、あたいもおまえのこと、なんつーか、ほら、そら、アレでさ…」

そのものズバリがどうしても言えなくって、しどろもどろで意味不明の言葉を羅列したあたい。

「わかります」

そう言って、清四郎は顔をくしゃくしゃにして笑った。まるで、子どもみたいに。

長い付き合いなのに、清四郎がそんな風に笑うのを見たのは初めてで、あたいはなんか感動しちゃって、あいつの顔をポカンと見てた。

そしたら、いきなりぎゅって抱きしめられて、キスされた。

そんな、手の早いとこも知らなかった。

 

いっぱいいっぱい、あいつの知らなかったとこを知っていく。

それは、「恋人」の特権。

 

 

 

じっとりと背中に汗が浮いてくるのに閉口して、清四郎の身体を押すようにして、仰向けに体勢を変えてみた。

「ん…」

清四郎は軽く声を上げると、かえってあたいの身体に覆いかぶさってきた。

大きな手のひらが這い登ってきて、あたいの胸を掴む。

「ひゃんっ!」

思わず小さな悲鳴を上げて身をすくめた。耳元で、清四郎の気持ち良さそうなすーすーという寝息。

 

「もぉ、暑いよ、清四郎!」

肩をばんばんとあいつの胸に打ちつけて抗議すると、ようやく清四郎はうっすらと目を開けた。

「ん?」と眠そうに片目だけを開けて、「どうした?」と聞く。

寝起きの、かすれた低い声。こんな声だって、それまでは聞いたことがなかった。

 

「暑いってば。くっつくなよ」

「…クーラーがきついので、悠理の背中が冷えないようにと抱いてたんですが」

ムッとした声で答える清四郎。実のところ、寝起きは結構機嫌が悪い。

「…おまえの身体、熱いんだもん」

あたいがそう答えると、清四郎は緩慢な動作であたいから身体を離し、どさりと仰向けに寝転がった。

とたんに、クーラーの冷気を背中に感じる。

 

清四郎は両手を頭の上に伸ばし、ぐうっと全身で伸びをすると、はぁ、と息を吐いた。

片腕を目の上にかざして、むき出しになった厚い胸板に、汗が浮かんでいた。

…なんだ、清四郎も暑かったんじゃないか。

汗を拭うように、つ…と、人差し指を清四郎の胸に滑らすと、清四郎が薄目を開けて、腕の下からあたいを見た。

何度も指を滑らせていると、清四郎はくすぐったいのか身体をよじり、笑いながら身体を横向きにして、あたいを抱き寄せた。

 

 

「暑かったんじゃなかったのか?」

あたいの心を鷲掴みにする、低い声。

「おまえも、暑かったんじゃん。こんなに汗かいて」

「…悠理の身体が、熱いから」

「熱いのは、おまえの身体だろ?」

そう言いながら、広い胸に顔を埋める。

「恋の炎に身を焦がしている所為ですかねぇ」

くすくす笑いながら、清四郎はあたいの髪に顔を埋める。

 

そうして、結局また抱き合って眠ることになるんだ。いつも。

 

 

身体より熱いのは、互いの心の温度。

 

暑くても、触れ合っていたいと思ってしまう。

 

そんなことも、初めて知った。

 

恋の不思議。

 

 

 

end

(2007.9.26up)

 

 


 

…バカップルです。(^_^.)

どうも私は、ふたりがベッドでいちゃこらいちゃこらしてる風景が異様に好きらしいです。

 

本当は、夏企画向けにもう少し長く書こうと思っていたのですが、間に合わなかったうえにもう夏もすっかり終わっちゃいそうなので、拍手にアップ。

ほんとに、涼しくなりましたね〜。

 

 

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