「風邪をひいた時には…」

 

 

 

風が日増しに冷たさを増して行く今日この頃である。
秋から冬へ、季節が変わり行く時には、人々は体調を崩しやすいもの。
そしてここにも、体調を崩した人が一人。


「熱がありますよ」
「ほんど〜〜?(ずずっ)」



イラスト By かめおさま


清四郎の部屋での「おうちデート」中。

「何か寒気がする。頭も痛い」と言い出した悠理の額に自分の額をくっつけ、清四郎はやれやれ、といった調子で言った。

どうやら鼻水まで出てきたようで、悠理はしきりに鼻をすする。

「ほら、ほら、鼻が垂れてますよ」

「らって…ぐほっ、げほっ」

…咳まで出てきたようだ。
清四郎は体温計を取り出して悠理に咥えさせると、薬を調合するべく薬品棚に手を伸ばした。
精密秤で数種の薬品を測り、調合して手際よく薬包紙に包んでいく。
薬品をしまうと、水を汲みに階下へと降りていった。

とん、とん、とん…
悠理は体温計を咥えたまま、熱の所為でぼーっとする頭をソファの背もたれに預けて清四郎の足音を聞いていた。
目を閉じて、待ってみる。

愛しい足音が階段を登って、自分の元へと戻ってくるのを。

キィ…ドアの開く音。
コト。テーブルに、グラスが置かれる音。
そして、頬に触れる優しい手。
咥えた体温計がそっと引き抜かれ、悠理は目を開ける。
目の前に、体温計の数値を読む清四郎の優しい顔。

「38度3分、か……結構高いな」

気遣わしげに悠理の瞳を覗き込む、清四郎の黒い瞳。
差し出された薬と水を、悠理は一気に飲み干した。
薬の苦さに、少し顔を顰める。

「だから言ったでしょ、へそ出して寝ないって」

「らり言ってんだ。お前がいつらって、脱がしちゃうから…」
清四郎の容赦ない言い方に、思わず頬を膨らませて言い返す。
鼻水の所為で、言葉も声も変だけど。


「…責任とりますよ」
「責任って……」
いつもはイジワルで悪魔的な恋人の囁きに、悠理は一瞬身を硬くした。
けれど、囁いた清四郎の表情と声は、あくまで甘く優しくて……

ふわり。

悠理の身体が、宙に浮く。
清四郎に横抱きされ、ベッドへと運ばれていく。
そっと寝かされた悠理は、これからされることを覚悟して、ぎゅっと目を瞑った。
やだよぉ。しんどいのに…と思いながらも。
けれど―――

「風邪をひいた時にはね、暖かくしてゆっくり休むのが一番です」

清四郎が隣に寝そべり、悠理の身体を優しく抱きしめた。
「ほら、寝なさい。こうしてずっと抱いていてやるから」

清四郎の大きな手が、優しく悠理の髪を撫でる。
ちゅ、と髪にキスされた。
とくん…とくん…と、清四郎の規則正しい命の音が聞こえる。
安心感と幸福感。悠理はゆっくりと目を閉じた。


「清四郎…」
そっと、名を呼んでみる。
「なんですか?悠理」
彼が答える。

「大好き」
素直な、言葉。清四郎が微かに笑った。
「僕も…大好きですよ」

風邪をひくのも悪くない。
こんなに穏やかで、幸せな時間が持てるのなら……

そうして悠理は、眠りへと落ちていった。

目が覚めた時には、きっと体調も良くなっているだろう。

悠理にとって、一番良く効く薬は、清四郎の温かさ。




 

end



風邪の季節ですね。皆様、お風邪を召されてはいないでしょうか?
かめおさんから、私が熱を出した時にお見舞いにいただいたイラスト&短文をもとに、幸せな二人を妄想してみました。

かめおさん、ありがとう〜。