「運命の事故」
「ふぎゃ!」 「わっ!」 どたっ!
悠理が、転んだ。それはよくある事。 清四郎が、それを受け止めた。それも、よくある事。 しかし…
ぶちゅ。
もつれて倒れ、はずみで触れ合った…もとい、しっかりと重なった、唇。 それは……
「悠理、清四郎、大丈夫ですの?きゃっ!」
「きゃ〜、キスしちゃったの?あんたたちぃ!」 「////」
美童が叫んだ。 「すごいね、これはきっと運命だよ。神様が決めたんだ!」
「……何言ってるんですか…冗談はよしてくださいよ」 上に乗った悠理をおろしながら、清四郎が呆然と答えた。 「そ、そうだじょ、そんなこと言ったら、お前の運命の相手はティコじゃないか!」 「じょ、冗談だよ、冗談!単なる事故だよね〜」 ひくっ、と顔を引き攣らせながら言いなおした美童の言葉は、二人の耳には届かなかった。
「悠理…事故とはいえ、すみませんでした」 俯いて立ち尽くす悠理を、清四郎は気遣った。 悠理は俯いたまま、ポツリと応えた。 「ファーストキスだったのに……」
*****
―――夜。 清四郎は、ベッドの中で何度も寝返りを打っていた。 脳裏に、今日の出来事が浮かんで消えない。
受け止めた悠理の重み。 触れ合った唇の柔らかさ。 真っ赤になって身を離した悠理の顔。 そして、俯いて言った悠理の言葉。
女の子にとって、大切なものである初めてのキスを、事故とはいえ自分が奪ってしまった。
「悠理も、女の子なんですよね…」 そう呟いて、目を閉じた。
―――かたや悠理も、眠れぬ夜を過ごしていた。 脳裏に、今日の出来事が浮かんで消えない。
自分を受け止めた清四郎の厚い胸と力強い腕。 触れ合った唇の感触。 呆然と見開かれていた黒い瞳。 そして、自分を気遣った謝りの言葉も。
それなりに夢見ていた初めてのキスが、単なる事故によるものだったなんて。
「清四郎に、悪いことしちゃったな」 そう呟いて、眠ろうとした。
*****
「悠理、僕と付き合ってください」
2ヵ月後。 校舎の裏で、熱い瞳で悠理に告げる清四郎の姿があった。
あの日から、悠理のことが頭から離れない。 天真爛漫な、悠理の言動。 泣き虫で寂しがり屋で、友達思いの悠理。 あれからずっと悠理の姿を目で追い続け、そして気付いた。 自分の中の、悠理への思い。
きらきらとした瞳で清四郎を見上げ、悠理はこくん、と頷いた。
薔薇のような唇が、綻んだ。
あの日から、清四郎のすべてが気になっていた。 強くて頼もしくて、聡明な清四郎。 いじわるで冷たいとこもあるくせに、結局は助けてくれる、その優しさ。 ずっと清四郎を見ていたら、嫌でも気付いた。 自分の中の、清四郎への恋心。
あの事故はきっと、運命の神様の仕業。 鈍感な二人に、お互いへの気持ちを気付かせるために。
そして、二人は事故ではなく、心からのキスを交わした。
end
拍手コメントで、萌え一緒女さま(笑)からいただいたリク、「事故チュー」ネタです。 原作の、ティコと美童のチューは笑えましたが、あれ、あの後どうなったんでしょうね〜?ティコは諦めてないだろうし。清四郎が相手でなくてよかったわ。(^^)
Web拍手のお部屋
|