『馬鹿。 』

 

 

 

菊正宗が、白鹿の奴となんかニコヤカに話してる。

よく見る光景。

あたいには、見せたことも無いような優しいカオして。

 

馬鹿。

 

こっち見ろよ。

ここでこうしてお前のことばっかりずっと見てるあたいに気付けよ。

 

……って、何であたい、あいつばっか見てんだろ。

優等生。センコーに取り入るのがうまい、いけ好かない奴。

なのに、何でこんなにあいつのことが気になるんだろう?

 

……背、高いな。

あんなに高かったっけ?

胸板とかも、あんなに厚かったっけ?

弱々しいお坊ちゃんだと思ってたけど、そうでもないのかな?

そういえば、お勉強だけが取り柄かと思ってたけど、運動神経もいいもんな。

ほんとに、何でもできるんだな。

でも、喧嘩はあたいのほうが強いよな。

男は、強くなくっちゃな。うん。

あたいより、弱っちい男なんて、願い下げだ。

 

 

 

剣菱さんが、こっちを見ている。

さっきから、ずっと。

僕を見ているのか?

いや、おそらくは野梨子のことを見ているんだろう。

野梨子のことを嫌っているようだが反面、気になって仕方がないようでもあるし。

 

馬鹿。

 

そんなことばかり考えて、さっきから野梨子の話がちっとも耳に入っていないじゃないか。

ほら、「清四郎はちっとも私の話を聞いていませんのね」って言われたじゃないか。

 

 

 

僕は何故、こんなにも彼女のことが気になるのだろう。

入園式の日、彼女に蹴り倒されたというのに。

思えば、あれが僕の人生で始めて味わった屈辱感。

「男は、勉強が出来るだけでは駄目なのだ」と、教えられた経験。

あの日から、僕は武道を習い始め、勉強だけではわからなかったことを色々と学んだ。

彼女には、そんなことはわからないだろうな。

僕が今、どれほど強くなっているかなんて。

いつか、彼女に知ってもらえる日が来るのだろうか?

 

 

そっと、流した清四郎の視線が、悠理のそれと出会う。

お互いに、慌ててそらす、視線。

 

 

―――馬鹿。

 

 

互いに、相手のことが気になって仕方がないのに。

まったく。鈍感な二人。

胸の内の感情を何と呼ぶのか、まだ、知らない。

全く似ていないようで、そんなところはひどく似ている二人。

 

 

思いはただ、すれ違う―――。

 

 

 

 

end

(2007.3.18up)

 

 


あう、恥ずかしい。(/_<。)

いつまでもバレンタインネタをアップしておくのも…と思って、ファイルをかき回してみたら、

出て来たのがこれ。いつ書いたのかも覚えていないほど、初期の作品です〜。

この頃はまだ、腐れてなかったんだな…

背景の写真のお花は、「初恋草」というのだそう。ロマンちっくだわ。

 

 

 

 

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