「桜の花の下」 By hachiさま
春の夜。
里山の奥に、人知れず咲く桜の花があると聞き、僕らは出かけた。
銀板を貼ったような夜空に、十六夜の丸い月が輝いている。 月光は明るく、星は姿を潜めていたが、月のお陰で足元もぼんやり明るい。 見上げれば、満開の、白い天蓋。 はらり、はらり。 小さな花弁が、夜に舞う。
「綺麗・・・」 悠理が、小さな声で呟く。 日中なら雑音に掻き消される音量でも、澄んだ夜にはよく通る。 僕は、悠理を後ろから抱きしめ、満開の天蓋を見上げた。
「桜の木の下には、死体が埋まっているという噂がありますよ。」 「日本じゅうの桜の下に死体が埋まっていたら、大変じゃん。」 僕の胸に凭れながら、悠理がくすくす笑い声を漏らす。
「死体が埋まっていると思わせるほど、桜は妖しい美しさを放っているということでしょう ね。」 はらり。 白い項に、花弁が舞う。 僕は、花弁の上に、そっとくちびるを押し当てた。
足が浮くほど突き上げると、悠理は細い悲鳴を上げた。 露わになった乳房に、花弁が舞う。 悠理は、桜の幹と、僕の間で、激しく喘いでいる。 半裸の彼女が、潤んだ瞳で、満開の天蓋を見上げる。
その姿は、満開の桜よりも美しく、妖しかった。
白い首筋に、花弁よりも赤い印を刻みたい衝動にかられる。
しかし―― それは、許されない。
同時に果てても、僕らは繋がったままだった。 半ば気を飛ばした悠理が、くちびるをねだる。 腰を合わせたまま、くちびるも合わせ、互いの存在を堪能する。
「悠理・・・魅録から、プロポーズされたのでしょう?」 僕が尋ねると、悠理は僅かに眉を顰めた。 「誰から聞いたんだよ?まさか、魅録本人からか?」 「ええ。なかなかOKして貰えないと、愚痴っていましたよ。」 結婚してあげないのですか?僕の質問は、途中で消えた。
彼女が、僕のくちびるを、自分のくちびるで塞いだから。
ふたたび、燃え上がる身体。 桜の花弁が舞い散る中で、僕らは狂ったように求め合った。
イラスト By フロさま
「・・・戸籍はどうであれ、貴女の心も、身体も、僕のものです。」 決して痕をつけられぬ肌は、男の愛撫に応えるように、桜色に色づいている。 「お前・・・野梨子は、どうするんだよ?」 喘ぎながら漏らす言葉も、桜色に染まっている気がした。
「家付き娘の野梨子とは、結婚は出来ませんよ。僕は、白鹿の家に入る気なんて、さら さらありませんからね。」 「なら、どうして、野梨子と・・・」 「だって、仕方ありませんよ。野梨子に告白されたとき、貴女は魅録と交際をはじめて いましたから。」
それは、僅かなタイミングのずれだった。 そう。本当に、僅かな。 僕たちは、愛し合っていながら、それに気づいていなかった。
まだ春浅い、里山の夜。 月が煌々と照り、満開の桜が闇を彩る。
「貴女が誰と結婚しようが、僕は貴女を放すつもりはありませんよ。」 耳元で囁くと、悠理はうっとりとした微笑を浮かべ、首に縋りついてきた。 「あたいだって・・・お前を放すつもりはないさ。」
狂い咲く、花。花。花。
そして、僕らも狂乱の夜に沈む。
「悠理・・・貴女だけを、愛しています。」 「あたいも、お前だけを、愛している。」
二人の姿を隠すように、花弁が舞った。
桜の花の下には、僕らの良心が埋まっている。
――Fin
まずは、読んで頂いて有難うございます。 満開の桜、月光の下で狂ったように散る花弁、そして、罪の意識を抱きながらも、激しく 求め合う二人。そんなイメージが少しでも伝わったなら、幸いです。 ところで、この話が麗さんに引き取られたのには、ちと込み入った訳がございます。某 所で晒しております愚作「さる」と、この話は、サイト管理者さま同士の裏取引によっ て、落ち着き先を決めたのです。ええ、描いた本人の意思はまったく無視で。(笑)ま あ、そのぶんイイ思いをさせてもらっておりますが。
麗さま、フロさま、色々とご馳走になりました♪
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舞い散る桜のイメージにうっとり。何で結ばれんのや?この二人。(涙)
インサイダー取引によりこの作品をいただきました。(笑)
ってか、無理難題を私&フロさんにふっかけたのは、どこの誰〜?オニッ!
うちのサイトではすっかり絵師様として活躍されているフロさん。それも@@絵師。(笑) お二人とも、ありがとうございました〜。
「Dark Bee Collection」
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