「俺色にそまれ」

  By にゃんこビールさま

 

 

可憐が男と別れるのなんて高校の時から何度も見てきた。
「あんなやつ、こっちから振ってやったわ!」

いつもそんな強がり言って新しい恋を探していたっけ。

恋に傷つき、また恋して綺麗になっていく可憐。

俺は今まで何度も見ていた。


可憐が結婚すると聞いたのは今年の春。

大学を卒業したら結婚すると俺たちに話した。

大手印刷メーカーの次男坊。
宣言通りの玉の輿。
でも可憐は大はしゃぎすることもなく、
好きになった人がたまたまそうだっただけと言ってた。

きっと今までと違った恋をしたんだ。

可憐はせつないほど綺麗になってた。



卒業前に6人で旅行に行くことになっていた秋。

可憐の婚約が破談になったと聞いた。

俺も新聞で見たが、可憐の婚約者の兄が交通事故で亡くなって
必然的に次男が跡取りになった。
もともと可憐との結婚にいい顔でなかった向こうの母親が猛反対したのだ。

可憐の家庭のことから、髪型や服装に至るまで。

箸の上げ下ろしまで気にくわないってやつだ。

婚約者も母親の説得に努力したが、結局は会社存続のため。

可憐との結婚は諦めることになった。
この話を聞いたとき、悠理は相手のうちに殴り込みに行こうとするほど激怒した。

なんとか清四郎が止めたが、気持ちはみんな同じ。

ただ、俺たちのことも向こうの母親に言われたようで、結局なにも言えなかった。

「私のことなら気にしないで。旅行は行きましょう」と可憐は言った。


車3台に別れて伊豆に向かった。

清四郎と悠理。美童と野梨子。

俺の車には可憐。
最初はくだらない話して笑っていたけど、可憐の笑顔がどこか寂しい。

会話が途切れて静かな空気になった。

「…魅録は何も言わないのね。」

まっすぐ前を向いて可憐がつぶやく。

「いまさら済んだこと言ってもしょうがねぇだろ。」

俺は窓を少し開けて煙草に火を付けた。

「そうね。また新しい恋見つけるわ。とびっきりいい男…」

いつものセリフ。だけど声が震えている。

そっと隣を見ると可憐の目から一粒の涙。

男と別れて涙を流すなんて可憐らしくない。

そんなに特別な存在だったのか?そいつは。

俺が知っている可憐は派手な表面とは違って純情で、一途で、情に厚い、
そんないい女。
悠理に失恋した俺に『男は、失恋した数だけ恰好良くなるものなんだから、
これで良かったと思いなさい』って手を引っ張ってくれた可憐。
あれから俺の中で可憐は特別な存在になったんだ。

「可憐をこんな風にするなんて許せねぇな。

「え?」
「でも可憐を俺のところに返してくれたから感謝しなくっちゃな。」

「どういう意味?」
可憐の涙は止まった。
「可憐が可憐でいられる場所ってここだろ?」

可憐は黙って聞いている。
「俺も俺らしくしてられるのはここだ。」

可憐が微笑んだ。
「…そうね。あんまりにも近すぎて気が付かなかったわ。」

今まで見たこともないくらい綺麗な笑顔だった。

「私くらいよね。不器用な魅録のよさがわかってるのは。」

くすくすっと可憐が笑った。
「何だよ、それ。」
俺はムッとして横目で可憐を見た。

「サンキュ。魅録ってホント、いい男ね。」

可憐が俺の方に顔を向けていた。

「今ごろ気が付くのが…おせーよ。」



可憐 何よりも俺色にそまれ
俺も 何よりもお前色にそまろう

 



end





にゃんこビールさまが、ハチ子作「one-side love」の後日談を書いてくださいました〜。米米クラブの「俺色にそまれ」からの妄想だそうです。

ハチ子に贈られた物ですが、「ハチ子専用はもったいないっ!」とのことで、うちに頂きました〜♪

魅録って本当にいい男ですよね〜。いかに清四郎偏愛の私でも、男としての器は彼の方が上であることは認めざるを得ません。

にゃんこ様、素敵なお話をありがとう〜。



Gift 
Material by Weed garden さま