Jasmine and Moon By にゃんこビールさま
夜空には丸い月が浮かんでいる 優しい月明かりは、そっと部屋の中に忍び込んできた 清四郎と悠理はどちらからともなくテラスに出て、 海辺へと散歩に出た
ここは剣菱家のプライベートアイランド 必要最低限の従業員しかいない別荘は 耳障りなテレビもラジオもない 目障りな煌々と光るネオンもない
ここにあるのは 打ち寄せる波の音 島をわたる風の音 太陽の眩しい日差し 月の明かりと星の瞬き 清四郎の優しい眼差し 悠理の明るい笑い声 ただそれだけ
澄み切った大気に浮かぶ月は、今にも手が届きそう 昼間は色彩鮮やかな天然色で眩しかった世界も 月明かりの下では、幻想的な世界を作り出す 風に揺れる木々も、庭に咲いている花たちも みんな青白く照らされている そして風にただよう甘い香り 庭から海へと続く道にはジャスミンが咲いている 小さくて白い花と、甘い香りがアーチになっていた
ジャスミンに包まれ、清四郎と悠理は立ち止まった 月の光りを受け、ジャスミンの花は咲いていた 太陽が眩しい昼間には、黄色いつぼみのままで、 こんなに香りが強く漂っていなかった 月夜に浮かぶジャスミンはとても神秘的 清四郎は夜空に浮かぶ白い花を見つめ、 悠理は甘い香りを深く吸い込んだ ふたりは微笑み合い、手を繋いでジャスミンのアーチをくぐり抜けた
海辺に出ると、月の光りが一層明るい 濃紺の沖には月がプラチナの粒となって映っている ここは、青と白と銀色の世界 月明かりに浮かぶ清四郎の横顔 月明かりに輝く悠理の瞳 ふたりはゆっくりと砂浜を歩いた 昨日あったこと 今日やったこと 明日すること 話しをしては、笑い 笑っては、話しをした
しばらくして砂浜に並んで座った 清四郎は悠理の腰に腕を回し 悠理は清四郎の胸に頭を寄せた ふたりはそのまま黙って、波の音を聴き、 夜空に浮かぶ月と、銀色の波を見つめていた
悠理は静かに振り返り、清四郎を見つめた 黙ったまま、清四郎の頬に手を寄せる 聡明さが現れている眉 宇宙のように深く黒い瞳 プライドと同じ高い鼻 気品があるくちびる 悠理はゆっくりと、風のように撫でていく 首から肩の均整のとれたライン 筋肉質の逞しい腕 温かくて大きな手 そして、細くて長い指 月明かりに浮かぶ清四郎は高雅で、冷艶で まるで月読尊が姿を現したようだ
悠理のひんやりとした指先で撫でられている間、 清四郎は黙って悠理を見つめていた 潮風にそよぐ柔らかい髪 切れ長の大きな茶色い瞳 伏せた長い睫毛 濡れて光るくちびる 清四郎は花を賞でるように悠理を見つめる 細くて長い首筋 服に隠されている肌の白さ すらりと伸びた手足 そして、華奢な身体 月明かりに照らされた悠理は高潔で、華美で まるでアルテミスが舞い降りたようだ
悠理はそっと清四郎の指先にキスを落としたあと、 ゆっくりと清四郎を見上げた 月の光りが悠理の瞳に銀色に光る 銀色の波が清四郎の瞳に揺らめく 月の魔法にかけられたように、 ジャスミンの香りに酔ったように 惹き寄せられるようにくちびるを合わせる
風に乗ってきたのか 悠理の身体から立ちのぼるのか 甘いジャスミンの香り
月の光なのか 清四郎が発しているのか 銀白に輝くほのかな光
聞こえてくるのは波の音と恋人の甘い吐息
月の光りとジャスミンの花 銀色に光る波と甘く香る風
いつでも どこでも 清四郎と悠理のふたりだけ ただそれだけ
end
|
Material By Pearl Boxさま