テレパシーと白い朝

       By カパパさま

 

 

 

菊正宗清四郎は夢を見ていた。

裸で睦みあっている二人の映像。

二人がそういった行為をするにはまだ幼いと知りつつ、清四郎は上から見ているのだ。

「優等生」と呼ばれる彼が、その行為を止めないのには理由がある。

一つは、それが夢であると知っているからだ。

そしてもう一つは、ずっと続けて欲しかったからだ。

その二人は、剣菱悠理と自分自身であったから。

 

 

はっと目が覚めて清四郎は精通を迎えたのだと知った。

初めての感覚に顔を歪める。寝小便をしたはるか昔の記憶が蘇って、一層気分が滅入った。

父はともかく、母や姉に知られるのは恥ずかしい。

そっと階下に降り、風呂場に足を向ける。

夜が明けきらぬ内に証拠を隠滅したい。

情けない気分にはなるが、きっと誰しもが通る道なのだろう、と開き直りさっき見た夢を思い出した。

 

***

 

暴れん坊で有名な剣菱悠理が自分の腕におさまっていた。

間近で見た彼女はかつて見た寂しそうな表情を浮かべており、あまりに美しかった。

上から見ているはずなのに視点が急に近くなるのは、それが夢だったからだろう。

彼女の笑顔が見たくて、何度も口づけをした。夢だと分かっているのに必死で彼女の体を抱きしめ、彼女の全身にキスをした。色気のない身体がくねり、それが一層清四郎の性欲を掻き立てた。

 

(綺麗だ・・・)

 

清四郎は夢の中でも感心したものだ。

あんなに喧嘩ばかりしているというのに、傷ひとつない。それはそのまま彼女の喧嘩強さを示している。しなやかな細い体から繰り出されるとび蹴りは強烈なのだろう。

何人もの男を地に沈めたであろう蹴りを繰り出す足にも舌を這わせる。

彼女は清四郎の予想どおり、ぎょっとした顔をして足を引っ込めようとした。

逃がさない。力を込めて握ると、彼女は大人しくなった。

清四郎は自分が思った以上に強くなっていることに満足し、もっと大胆な愛撫に移る。

以前読んだ本の影響だという事は分かっていた。その本のエロティックな描写に勃起したのも覚えている。

 

(剣菱さんをイカせたい)

 

それしか考えられなかった。

本の描写と同じように、否それ以上に執拗に愛撫し、喘いでいる彼女の顔を見てさらに興奮する。声が高くなった時や表情が大きく歪んだ時は、力の強弱を変えて何度もいたぶった。

 

 

場面は急に転換し、ふわふわ頭が清四郎の下半身につけられ動いている。

それは、ちらりと見かけたアダルトビデオのパッケージにあった写真の影響だ。

清四郎は立ったまま、膝立ちしている少女の頭をなでている。

まだ成長の余地を残しているが、聖プレジデントきっての問題児の口の中に埋もれているそれは屹立していた。

清四郎はふわふわ頭が動くのを見下ろし、自分に奉仕してくれている女は間違いなく剣菱悠理なのだ、と実感していた。一種の感動だった。

感動している清四郎を見下ろしているのもまた清四郎で、二人の清四郎はミクロとマクロの視点で、剣菱悠理との睦み合いを見ていた。

 

ようやく口を離した悠理を軽々と抱き上げた清四郎は、彼女の足を開かせて自分の身体に絡みつかせた。彼女の腕を自分の首にまわし、「抱っこ」した状態にする。なぜかこの時の清四郎は中学1年生ではなく、成長しきった大人の男になっているのだ。背も高く、悠理を正面から抱いていても、ちっともよろけたりしない。

大人になっている清四郎は悠理の足の間に、今さっき愛撫されていたものを突き刺した。

悠理の尻を揉み、何度も何度も腰を動かした。

上から見ている清四郎は、この体位を何で知ったんだっけ?と思い出そうとしている。

そして腰の動きが激しくなったのを見て、宴の終了を感じ取っていた。

 

 

***

 

 

夢の中で清四郎が予感したとおり、すぐに淫らな宴は終了した。

目の前が真っ白になり、何かを洩らした感覚にはっとして起きたところ、射精をしていたことに気づいたのだ。

夢精、と呼ばれるその現象は大人への一過程だ。

けれど清四郎は考える。

夢精とは言うものの、性的欲求を刺激するようなものではない夢を見て、または夢さえ見ないで最初の射精を迎える者も少なくないというのに、自分はなぜあんな夢を見たのだろう、と。

夢の中でも感じていたように、本で得た知識やふと見た写真の映像が頭に残っているからだろうか。

 

(夢は理性でコントロールできるものじゃないからな・・・)

 

どんなに理由をつけようとも夢は無意識が作り出すものだから、脳の海馬がランダムに取り出した記憶を勝手につなぎ合わせているだけなのかもしれない。表層意識でいくら考えても無駄だ。

だから、剣菱悠理が夢に出てきたことも、清四郎の隠れた欲求とは何の関係もないかもしれない。

夢の中で、彼女を達させたいと熱望したことも彼女を抱いていることに感動したことも。

 

 

 

 

精通を迎え、多少寝不足の感はあるが、清四郎は通常どおり野梨子と登校した。

たくさんの生徒の挨拶に混じって、明るく大きな声が弾ける。

 

「はよーっす!」

 

やはり剣菱悠理だった。同じクラスであろう女生徒に声をかけている。

溌剌として元気いっぱいな彼女には、毛すじほども淫靡な陰は見当たらない。それでも清四郎はそんな彼女を夢の中で犯したことを思い出し赤面した。

 

(僕は・・・こんな男だったのか・・・)

 

自分自身に幻滅する。自分がまさかこんなにも低俗で淫猥だとは思っていなかった。

色欲も性も感じさせない少女を見て、爽やかに朝の挨拶をする彼女を見て、心の奥底で「抱きたい」と渇望していることを発見してしまったのだ。

本音が、「夢の中だけで終わらせたくない」と叫んでいる。

 

 

何事も問題なくこなせる優等生、菊正宗清四郎にとって初めての事だった。今までは初めての事でもそれなりに対処できていたのに、今回ばかりは上手くさばける自信がない。

だから、逃げ出した。

剣菱悠理から目をそらし、幼馴染の少女に「早く行こう」と言って歩を早めたのだ。

野梨子が慌てているのが分かるが、歩みを遅くする気にはなれなかった。

すると背後から剣菱悠理が級友と話しているらしい声が聞こえた。彼女の声は大きいものだから、背を向けていても聞こえてしまうのだ。

 

「昨日の夜さー、全国駅弁食い倒れパーティーやったんだぜい!」

 

自慢げに語る彼女はきっと幸せそうな顔をしているのだろう。美味の数々を堪能して上機嫌に違いない。

 

清四郎は足を止め、剣菱悠理を振り返った。

昨夜、清四郎の夢の中で性交した時の体位は、俗に『駅弁』と呼ばれるものであった。今はキオスクで売っていることがほとんどだが、まれに昔ながらのやり方で売っているものもいる。弁当が入っている箱を首から提げて、電車内に入って売るやり方になぞらえて名づけられた体位だ。

 

ただの偶然だと言えばそれまでだ。同じ駅弁と言っても二人は全く違う事を考えていたのだし、言葉を交わすことすらしていない。

けれど、見えない力が働いているように感じたことは事実だ。

透明で見えない糸が二人を結んでいて、それが互いの思念を伝えてこんな偶然が起きたような気がしてくる。テレパシーのようでくすぐったい。

 

「どうしましたの?」

 

急に足を止めた清四郎を、野梨子は驚いて見ている。常に優秀な清四郎が、妙な行動をするので怪訝に思っているのだろう。

 

「いや、何でもない。」

 

ポーカーフェイスは得意だ。清四郎は本当に何でもない事のように言って、野梨子を校内に促した。そしてもう一度だけ剣菱悠理を振り返った。

もう剣菱悠理は見えなかったけれど、笑顔で語っていただろう彼女を思い浮かべ笑みがこぼれる。

テレパシーか何かは分からないが、昨夜、清四郎は一つ大人になった。その夢の中で寂寥に覆われていた悠理の顔は、現実では光り輝いている。そして二つのキーワードは共通だった。

今は、それだけでいい。まだ大人への一過程を経ているに過ぎないのだから。

さしもの清四郎でも、人生で飛び級はできない。

今は、それだけでいいのだ。

透明な糸は実在するのだから・・・。

 

 

end

 

 


 

カパパさんに、もらっちゃいました〜!(^^)!

 

カパパさんのチビ清×悠シリーズが大好きな私のために、シリーズの延長として、中坊清四郎で書いてくれました〜!

うーん、精通でくるとは!しかも駅弁とは!さすがカパパさん、視点が違うぜ。(爆)

これから何年か経って二人が両思いになったとき、清四郎はふと、この日のことを思い出すんでしょうね。

 

「何、笑ってんの?」

「いえ、ちょっと昔のことを思い出しましてね」

「思い出し笑いなんて、スケベ。で、何を思い出したんだよ」

「大人への階段を、のぼった日のことですかねぇ。悠理…」

「何?」

「僕の精通はね、あなたとのえっちな夢を見てなんですよ」

 

……って、言わんよな。(爆)

カパパさん、ありがと〜!

 

 

*カパパさんのサイト、「ゆーかんどっこい」が閉鎖され、ご本人からこちらの作品も削除して欲しいと申し出があったのですが、無理にお願いしてこちらに隠させていただきました。

いつか復帰してくださることを願っています。

 

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 Material by  MIYUKI PHOTO さま